講演情報
[P4-10]重度混合性失語症例に対して体性感覚情報を媒介とした解読課題を実施し、再び対話が可能となった過程について
*小林 萌香1、湯浅 美琴1、豊田 和典1 (1. JAとりで総合医療センター)
【はじめに】 重度混合性失語症例に対して体性感覚情報を媒介とした解読課題を行い,再び対話が可能となったため報告する.
【症例】 70代女性,右利き.左視床出血により重度混合性失語症を呈した.入院前より認知機能低下の指摘あり.2病日目にST開始.外部刺激への反応は乏しく,やりとりの成立は難しかった.発話は独語,新造語,無関連語,意味性錯語が頻発するが,エコラリアを契機に的確な表出が可能な場面もあった.SLTAは,衝動的反応が主で,次第に傾眠となり実施困難.評価的訓練として,絵カードで視覚情報の解読を試みたが,差異の認識は全くできず,覚醒が低下し継続困難だった.物品を用いた体性感覚情報の解読を試みたところ覚醒は維持され,文脈に即した発話や自己経験に基づく表出が増加した.
【病態解釈】 本症例は解読可能な感覚モダリティに偏りがあり, 文脈理解及び文脈に適した意味情報の賦活が困難と推察される.この情報処理の偏りは脳全体のシステム不全を引き起こし,発話内行為や発話媒介行為の認識・解釈を妨げ,コミュニケーション行為の調整を困難にしていた.エコラリアは,注意の焦点化や情報量の限定など,情報処理にかかる認知的負荷軽減への代償戦略とも考えられる.体性感覚や自己経験等,残存した情報処理経路を経由し,障害された情報処理経路の再学習を促すことで,コミュニケーション行為の調整が再び可能になると考えた.
【治療アプローチと経過】 1回60分の介入を週5回,8週間実施した.まず,書道道具や食器など来歴に関連深い物品を用いて体性感覚情報から意味情報を構築し,自己経験の想起を促した.次に,絵カードを用いて体性感覚情報を経由し視覚・聴覚情報で提示された差異への気づきを促し,意味情報の構築と解読へ繋げるようガイドした.初期は差異の抽出ができず,混乱や覚醒低下が見られたが,体性感覚情報の活用により次第に覚醒は維持され,思考に対する疲労感も軽減した.後半は,差異の認識が円滑になり,STの働きかけに応じることが可能になった.退院時の再評価では,集中力が持続しSLTAが実施可能になった他,エコラリアの減少が認められた.
【考察】 残存した情報処理能力を活かした課題を設定し対話を重ねることで,再び脳全体がシステムとして機能し,コミュニケーション行為の調整が可能になったと考えられる.
【倫理的配慮】 本人に説明を行い書面にて同意を得た.
【症例】 70代女性,右利き.左視床出血により重度混合性失語症を呈した.入院前より認知機能低下の指摘あり.2病日目にST開始.外部刺激への反応は乏しく,やりとりの成立は難しかった.発話は独語,新造語,無関連語,意味性錯語が頻発するが,エコラリアを契機に的確な表出が可能な場面もあった.SLTAは,衝動的反応が主で,次第に傾眠となり実施困難.評価的訓練として,絵カードで視覚情報の解読を試みたが,差異の認識は全くできず,覚醒が低下し継続困難だった.物品を用いた体性感覚情報の解読を試みたところ覚醒は維持され,文脈に即した発話や自己経験に基づく表出が増加した.
【病態解釈】 本症例は解読可能な感覚モダリティに偏りがあり, 文脈理解及び文脈に適した意味情報の賦活が困難と推察される.この情報処理の偏りは脳全体のシステム不全を引き起こし,発話内行為や発話媒介行為の認識・解釈を妨げ,コミュニケーション行為の調整を困難にしていた.エコラリアは,注意の焦点化や情報量の限定など,情報処理にかかる認知的負荷軽減への代償戦略とも考えられる.体性感覚や自己経験等,残存した情報処理経路を経由し,障害された情報処理経路の再学習を促すことで,コミュニケーション行為の調整が再び可能になると考えた.
【治療アプローチと経過】 1回60分の介入を週5回,8週間実施した.まず,書道道具や食器など来歴に関連深い物品を用いて体性感覚情報から意味情報を構築し,自己経験の想起を促した.次に,絵カードを用いて体性感覚情報を経由し視覚・聴覚情報で提示された差異への気づきを促し,意味情報の構築と解読へ繋げるようガイドした.初期は差異の抽出ができず,混乱や覚醒低下が見られたが,体性感覚情報の活用により次第に覚醒は維持され,思考に対する疲労感も軽減した.後半は,差異の認識が円滑になり,STの働きかけに応じることが可能になった.退院時の再評価では,集中力が持続しSLTAが実施可能になった他,エコラリアの減少が認められた.
【考察】 残存した情報処理能力を活かした課題を設定し対話を重ねることで,再び脳全体がシステムとして機能し,コミュニケーション行為の調整が可能になったと考えられる.
【倫理的配慮】 本人に説明を行い書面にて同意を得た.
