講演情報

[P4-12]口腔顔面領域への認知課題により感覚鈍麻と軽度運動麻痺の改善がみられた症例

*根本 皇太1、稲川 良1 (1. 医療専門学校水戸メディカルカレッジ)
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【はじめに】
 今回、発話および摂食嚥下に問題を認めなかったが、顔面と口腔内の感覚鈍麻を訴えた症例を経験した。接触情報を中心とした認知課題を実施し、良好な結果が得られたため報告する。

【症例】
症例は左被殻出血発症3週間後、リハ目的で回復期病棟へ転棟した60歳代男性である。主訴は「顔の右半分がモヤモヤする」、「歯磨きの時に力加減が分からず歯茎から血が出る」であった。Br.stage Ⅴ-Ⅴ-Ⅵ。FIM運動項目55/認知項目34。MMSE 30/30点。標準ディサースリア検査で低下項目はなく、発話明瞭度1であった。食事は常食であった。顔面は、安静時に右上口唇が若干挙上しており非対称であった。右口唇周囲・口腔の表在感覚は軽度鈍麻で、筋緊張は亢進していた。また、口唇の突出-引きの交互反復運動で右側のふるえがみられた。

【病態解釈】
 表情筋の多くは運動神経成分からなる顔面神経に支配される。これらは骨格筋と異なり筋紡錘がなく、皮膚に停止する皮筋である。また、運動結果を直接視覚で確認することはできない。症例は、その表在感覚の鈍麻により知覚運動情報の予測との不一致が生じた結果、歯磨きのような刺激入力時の運動遂行の問題だけでなく、「モヤモヤする」といった情動的な不快感を呈しているものと考えた。

【治療介入および経過】
 介入頻度は5回/週、1回40分。右口腔顔面領域に対して、接触情報を中心とした認知課題を実施した。道具は、スポンジブラシ、綿棒、ガーゼを用いた。方法は、表面素材、硬度、接触面積に差異を作り、それら接触情報の予測‐結果、左右比較、順序性の認識を実施した。その他、おしぼりと蒸しタオルにより温度覚を、モノフィラメントにより表在感覚を言語化し、確認した。約1か月の介入後、顔面の非対称性と口腔顔面領域の緊張亢進は軽減し、運動時のふるえが消失した。また、「モヤモヤするのは寝ぼけている時だけになった」、「力が入っていると分かるようになった。血が出なくなった」と内省を報告した。

【考察】
 安静時・運動時の改善と介入後の内省から、注意の覚度が保たれ、知覚情報へ注意を選択できる状況において、改善がみられたと考える。顔面に対する訓練では、筋紡錘がない、運動結果を視覚的に確認できないといった表情筋の特性を考慮する必要がある。

【倫理的配慮、説明と同意】
 本報告に際し、本人に趣旨を説明した上で同意を得た。