講演情報

[P5-02]下肢感覚運動麻痺を呈した腰部脊柱管狭窄症症例における認知運動課題と触覚フィードバックシステムの併用効果

*岡本 尚樹1、恒石 剛章1、名倉 二千夏1、田島 健太朗1,2、沖田 学1,2 (1. 愛宕病院リハビリテーション部、2. 愛宕病院福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
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【はじめに】
腰部脊柱管狭窄症(LCS)による感覚・運動麻痺で運動主体感(SoA)が低下した症例に対し,触覚フィードバックシステム(HFS)による感覚代行でSoAを向上させつつ,認知運動課題を行ったことで,姿勢制御と歩行能力が改善したため報告する.
【症例】
1年前から下垂足を自覚し,第1~5腰椎間のLCSに対して,椎弓形成術が施行された60歳台の男性である.術後4週の理学療法評価で主訴は歩行の不安定感であった.両足部の表在感覚は重度鈍麻し,足底は接触部位の細分化が困難であった.MMTは両足部1~2であった.歩行はT字杖で見守りが必要で,歩容は両側下垂足と代償的体幹傾斜を伴う踵打歩行を呈し,内省は「いながら足をあげてる.」と訴え,SoAは7件法で−1(どちらかといえば自身で動かしていない)であった.
症例はLCSに起因する足部筋力低下や感覚鈍麻により,姿勢制御が低下し歩行の支持機能が障害された.さらに感覚鈍麻により感覚運動的手がかりが減少し,SoAが低下(宮脇ら,2022)したことが,足圧経過に応じた姿勢制御の困難さを助長させた.
【介入と結果】
足底感覚による姿勢制御の向上を目的に,足底での素材識別と,歩行の支持機能を想定した姿勢制御課題を行った.HFSは課題前に使用した.HFSは振動デバイスを症例の頭部に装着し,センサーは理学療法士の指に装着し,症例の足部に触れた.その様子を見せ,センサーの振動で接触タイミングを同期させた.HFSの効果判定は,筋電図で前脛骨筋(TA)活動量と時間的因子を検討した.HFS後,シーソー上で重りを保持した時のTA活動量とタイミングの誤差が減少し,「力を入れるタイミングが分かりやすい」と訴えた.素材は絨毯とビニールの識別が可能となった.2週間後にT字杖歩行が自立し,「踵からつけ,つま先で蹴るようにして足をあげると歩ける.」と述べ,SoAは7件法で2(かなり自分で動かしていると感じる)となった.
【考察】 
HFSによる感覚代行は,頭部の振動と視覚的接触を同期させることで,足部の知覚的注意を誘導し,SoAを向上させる手がかりとなった.その後認知運動課題を行ったことで,足底感覚の再認識を促して,姿勢制御に必要な知覚の細分化を可能とし,姿勢制御と歩行能力が改善したと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
発表について説明し,同意を得た.個人情報の匿名性に留意した.