講演情報

[P5-04]身体とその周囲世界における志向的関係性の再構築―転倒受傷により歩行困難となった第11胸椎圧迫骨折の症例―

*恒石 剛章1、沖田 学1,2、田島 健太朗1,2、岡本 尚樹1 (1. 愛宕病院 リハビリテーション部、2. 愛宕病院 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
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【はじめに】
意識の本質規則に志向性があり、意識に与えられる対象は志向的な相関関係により構成されるといわれる(フッサール2001)。今回、歩行が困難となった症例に身体とその周囲世界における志向的関係性を再構築する認知運動課題を行い、改善がみられたため報告する。

【症例】
症例は第11胸椎圧迫骨折の保存療法を行っていた70歳台の女性である。転倒により受傷し、受傷前にできていたT字杖歩行や階段昇降は困難となった。両側足趾の変形が強くみられ、立位では前足部支持ができず踵部に荷重が偏位し、手すりを把持しないと姿勢保持が困難であった。右足部で内反の不随意運動が出現し座位では足底の内側が浮いた肢位となっていた。起立動作では手すりを把持した両手で重心の前方移動を補う必要があった。介助下でのT字杖歩行は4m歩行が10.05秒、13歩でそれ以上の歩行は恐怖感から拒否された。「足の裏が硬くて歩きにくい」と発言された。両側足底の触覚は中等度鈍麻であった。

【病態解釈】
本症例は座位、立位において右足部内反の不随意運動と踵部への足圧偏位がみられる。T字杖歩行では動揺が大きく、身体を支える介助を要した。以上のことから、床面と足底の相互作用による触感覚の志向的関係性が破綻し、適切に足底の接触面を保持または変化させることが困難となっているものと考えた。

【治療アプローチおよび経過】
足底の前足部と踵部で異なる表面性状を識別する課題を実施した。初期では両側ともに表面性状の識別は困難であった。しかし、自宅の敷物を想起しながら課題を実施することで徐々に識別可能となった。足底の触覚が細分化されていくと右足部内反の不随意運動が抑制できるようになり、課題開始から5週後には見守りで10m程度のT字杖歩行が可能となった。FIMで移動(T字杖)が1点から4点、階段は3点から6点まで向上し自宅退院となった。

【考察】
立位や歩行における触覚的意味は、足底と床面の関係を表している。触覚的意味の構成には意味をまとめる意識の努力があり、志向性を本質としている。本症例では、身体とその周囲世界における志向的関係性を再構築することで、支持基底面として機能する身体的意味を覚醒させることができたと考える。

【倫理的配慮(説明と同意)】
対象者から動画撮影と発表に関して書面にて説明し同意を得た。また、個人情報保護の観点から匿名性に十分な配慮を行った。