講演情報
[P5-06]開眼より閉眼で疼痛が軽減する胸腰椎圧迫骨折の2症例
〜視覚情報により変動する疼痛の病態考察〜
*矢野 恵夢1、石垣 智也2、佐藤 祐貴1、飛良 陸斗1、赤口 諒1 (1. 摂南総合病院、2. 畿央大学 健康科学部 理学療法学科)
【はじめに】
行為の遂行には視覚情報と運動の予測の適切な比較照合が重要となる.今回,開眼で疼痛が増強し閉眼で軽減する圧迫骨折の2症例を経験した.本報告では,視覚情報により変動する疼痛の病態を考察する.
【症例紹介】
症例1は第12胸椎圧迫骨折を受傷した90歳代男性である.病前ADLは自立だが入院後に幻視とせん妄を認めた.症例2は第2腰椎圧迫骨折を受傷した60歳代男性である.脳梗塞(右視床,右後頭葉,左小脳)の既往があり,施設入所で転倒歴が多く,移動に介助を要した.両症例とも運動開始前の声かけや受傷部位以外の他動関節運動に対して強い恐怖心を示し,全身の過剰な防御性収縮と疼痛の増強を呈した.
【評価・病態解釈】
同日内の疼痛強度(以下,NRS)は開眼より閉眼で低下した(症例1:上肢自動運動 開眼5/10,閉眼3/10,症例2:歩行 開眼4/10,閉眼3/10).破局的思考尺度(以下,PCS)は症例1:43点(21病日),症例2:36点(16病日)であった.視空間認知評価(コース立方体組み合わせテスト,レーヴン色彩マトリックス検査,錯視)で両症例ともに異常を認めた.加えて,閉眼座位で前方の対象物に身体の向きを合わせる課題(視覚情報から体性感覚情報の変換)は可能であったが,開眼条件で椅子の向きに対し,身体方向を判断する課題(視覚情報と体性感覚情報との相互作用)ではエラー(危険な対応関係)を示した.これらより,視空間認知の障害により視覚と体性感覚の照合に不一致が生じ,開眼時に恐怖心が高まり,防御性収縮を介して疼痛が増強すると解釈した.
【介入と結果】
体性感覚情報優位な状況で変質した運動の予測を是正することを目的に,アイマスクで視覚情報を遮断し運動療法を実施した.結果,開眼でも恐怖心と疼痛の軽減が得られ,疼痛のため中断していた行為が可能となった.介入後のPCSは症例1:20点(48病日),症例2:25点(30病日)と改善した.
【考察】
視空間認知を主要因として運動の予測の統合に問題があると,開眼条件に限局した恐怖心が惹起され,防御性収縮から疼痛が増強すると考えられる者が存在する.器質的要因以外で疼痛が変動する場合,行為の観察を基に要因を分析する病態解釈が重要と考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
個人情報の保護とプライバシーに配慮し,症例に応じて説明を行い,家族を含め口頭および書面にて同意を得た.
行為の遂行には視覚情報と運動の予測の適切な比較照合が重要となる.今回,開眼で疼痛が増強し閉眼で軽減する圧迫骨折の2症例を経験した.本報告では,視覚情報により変動する疼痛の病態を考察する.
【症例紹介】
症例1は第12胸椎圧迫骨折を受傷した90歳代男性である.病前ADLは自立だが入院後に幻視とせん妄を認めた.症例2は第2腰椎圧迫骨折を受傷した60歳代男性である.脳梗塞(右視床,右後頭葉,左小脳)の既往があり,施設入所で転倒歴が多く,移動に介助を要した.両症例とも運動開始前の声かけや受傷部位以外の他動関節運動に対して強い恐怖心を示し,全身の過剰な防御性収縮と疼痛の増強を呈した.
【評価・病態解釈】
同日内の疼痛強度(以下,NRS)は開眼より閉眼で低下した(症例1:上肢自動運動 開眼5/10,閉眼3/10,症例2:歩行 開眼4/10,閉眼3/10).破局的思考尺度(以下,PCS)は症例1:43点(21病日),症例2:36点(16病日)であった.視空間認知評価(コース立方体組み合わせテスト,レーヴン色彩マトリックス検査,錯視)で両症例ともに異常を認めた.加えて,閉眼座位で前方の対象物に身体の向きを合わせる課題(視覚情報から体性感覚情報の変換)は可能であったが,開眼条件で椅子の向きに対し,身体方向を判断する課題(視覚情報と体性感覚情報との相互作用)ではエラー(危険な対応関係)を示した.これらより,視空間認知の障害により視覚と体性感覚の照合に不一致が生じ,開眼時に恐怖心が高まり,防御性収縮を介して疼痛が増強すると解釈した.
【介入と結果】
体性感覚情報優位な状況で変質した運動の予測を是正することを目的に,アイマスクで視覚情報を遮断し運動療法を実施した.結果,開眼でも恐怖心と疼痛の軽減が得られ,疼痛のため中断していた行為が可能となった.介入後のPCSは症例1:20点(48病日),症例2:25点(30病日)と改善した.
【考察】
視空間認知を主要因として運動の予測の統合に問題があると,開眼条件に限局した恐怖心が惹起され,防御性収縮から疼痛が増強すると考えられる者が存在する.器質的要因以外で疼痛が変動する場合,行為の観察を基に要因を分析する病態解釈が重要と考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
個人情報の保護とプライバシーに配慮し,症例に応じて説明を行い,家族を含め口頭および書面にて同意を得た.
