講演情報

[SY-04]見えない制御を観る:言語と行為からみた歩行の治療ストラテジー

*菊地 豊1 (1. 脳血管研究所美原記念病院パーキンソン病・運動障害センター)
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歩行とは、下肢の筋出力やバランスといった運動制御の問題にとどまらず、「なぜ歩くのか」「どのように歩くのか」といった目的意識や内的表象に支えられた意味的行為でもある。こうした複合的な行為としての歩行を理解するには、それを制御・調整する上位レベルの認知・言語的構造の関与に注目する必要がある。

本セッションでは、中枢性疼痛(CPSP)における認知神経的な視点からの疼痛制御戦略、そして脳卒中患者の身体認識と運動ストラテジーの変容に焦点を当てた事例が紹介される。どちらも、下位構造(感覚・運動)の制御を、上位の認知・意味づけ・語り直しといった構成要素を通じて再統合する「制御の再構成」モデルに立脚している点で共通している。

本セッションでは、中枢性疼痛(CPSP)における認知神経的な疼痛制御の視点、および脳卒中患者の身体認識と運動ストラテジーの変容に焦点を当てた事例が紹介される。いずれも、感覚・運動といった下位構造の制御を、上位の認知・意味づけ・語り直しといった構成要素を通じて再統合する「制御の再構成」モデルに立脚している点で共通している。

このような視点を拡張するものとして、モデレーターからは、脊髄小脳変性症(SCD)における言語構造の障害と運動制御困難の関係について、自験例を基に紹介する。SCDでは、身体の協調運動障害に加えて、能動文から受動文への変換の困難さや、動詞選択の誤りなど、文法構造レベルでの言語障害が観察される。これらは単なる言語産出の問題にとどまらず、「自分が何をしているのか」「何をすべきか」といった自己の行為を構造化する能力そのものの障害として現れる。

言語は、脳内で行為をモデル化し、予測し、調整するための認知的ツールである。疼痛リハビリテーションでは、語りや内言による意味づけの再構成が行動変容に寄与することが示されており、SCDにおいても、言語構造を通じて自己運動を「語り直す」ことができれば、運動制御の再構築に貢献する可能性がある。ただし、SCDのように文法構造自体にエラーが生じる場合には、非言語的要素も含めた再構成戦略の設計が課題となる。

本セッションでは、このように認知・言語レベルの構造を「最上位の制御」として捉えたとき、そこから下位の身体構造の変化や再構成をいかに導くかという視点を、それぞれの臨床事例を通じて検討していく。

疼痛・脳卒中・神経変性疾患といった異なる病態に共通する「見えない構造」を観る視点と、それに基づく治療ストラテジーの構築について、共に検討を深める場としたい。