講演情報
[SY-06]脳卒中患者の歩行の変化を「観る」:混合研究法で紐解く運動戦略の再構築
*後藤 圭介1 (1. 国際医療福祉大学 成田保健医療学部 理学療法学科)
脳卒中患者の歩容が変化するとき、患者自身は何に注意を向け、自身の身体をどのように感じ、どのように動かそうとしているのだろうか。この問いは、歩行という目に見える現象の裏側にある、患者の内的な身体認識や運動イメージ、すなわち「見えない運動ストラテジー」を探る試みであり、本学会のテーマである「見えないものを観る」にも通ずる重要な視点である。本発表では、亜急性期脳卒中患者を対象に、股関節・体幹の固有感覚情報に焦点を当てた単回介入が、歩行の客観的指標と、患者自身が語る主観的な運動ストラテジーにどのような即時的変化をもたらすかを検証した我々の研究を紹介する。研究では、体幹加速度計を用いた歩行分析と、半構造化面接のテキストマイニング分析を組み合わせた混合研究法を用いた。その結果、介入直後から歩行の規則性・対称性といった歩行の制御の変化が客観的に認められた。さらに興味深いことに、歩行の運動戦略に関する患者の語りを分析すると、介入前に多く聞かれた「つま先を上げる」「足を前に出す」といった遠位部への意識から、介入後には「体幹をまっすぐに」「腰から動かす」といった近位部や重心制御への意識へと、その注意の焦点が明確にシフトしていることが可視化された。そして、この「運動ストラテジーの変容」は、歩行の質の変化が大きい患者ほど顕著に見られる傾向にあった。この結果は、運動パフォーマンスの変化の背景には、単なる筋出力の改善だけでなく、患者自身の運動イメージや身体認識の再構築が密接に関わっている可能性を示唆する。我々療法士は、客観的変化を捉えるだけでなく、患者の「語り」に耳を傾け、その内的な変化を「観る」ことで、回復可能性を最大限に引き出す治療を立案できるのではないだろうか。本シンポジウムでは、客観と主観の両側面から歩行回復のメカニズムに迫るアプローチの重要性について、皆様と議論を深めたい。
