講演情報
[SY-08]コミュニケーション障害の見えない病態を観るために
*林田 佳子1 (1. 脳血管研究所美原記念病院 神経難病リハビリテーション課)
本シンポジウムでは、コミュニケーションを「場に応じて振る舞いを選択し、他者と意図を共有する相互行為」と捉え、この“意図を共有する”能力を操作的に評価し、介入へ接続する枠組みを提案する。
言語は思考よりもコミュニケーションに最適化された手段である(Evelina,2024)。私たちは経験によって蓄積された概念を他者に伝えるために言語を運用し、相互作用を通して意味を更新している。典型例として、言語症状が明瞭な失語症を対象に、意図共有のフレームを臨床に適応してきた。具体的には、絵カードを用いて場面スクリプトを基盤に、セラピストと患者が相互に問いを立て回答を求め、相手の意図を読み解く課題設定から失語症者における意図共有の困難を可視化してきた。
一方、他の中枢神経疾患においても、意図共有の困難が共通して観察される。多弁で流暢に話すも内容を伴わない右半球損傷者、生活範囲と経験の限定化により言語の汎用性が低下した認知症者、発話がすくむパーキンソン病者、発話そのものに疲弊する脊髄小脳変性症者があった。これらの症例は失語症状を欠くが、「産出に偏重し、相手からのフィードバックを得られず、修復や確認が不十分になる」という同じ構造が基盤に存在する。結果、共同で意図をすり合わせるプロセスが十分に機能しないと考えられる。
患者らは意図共有に必要な相手の情報に十分に注意を向けられず、相手の発話や共有された場面の影響を過剰に受け、発話量の増加や自己修復の繰り返しという代償戦略に依存する。こうした産出偏重のコミュニケーションは、相互推論プロセスの障害として観察される。
コミュニケーションのリハビリテーションでは、過去の経験に即した場面スクリプトを手がかりに、相手と相互に意図を推論し続ける課題設定が重要となる。多様な疾患に共通する“意図共有のプロセス”の障害を疾患横断的に捉える視点から、コミュニケーション障害の見えない病態を観ることについて議論したい。
言語は思考よりもコミュニケーションに最適化された手段である(Evelina,2024)。私たちは経験によって蓄積された概念を他者に伝えるために言語を運用し、相互作用を通して意味を更新している。典型例として、言語症状が明瞭な失語症を対象に、意図共有のフレームを臨床に適応してきた。具体的には、絵カードを用いて場面スクリプトを基盤に、セラピストと患者が相互に問いを立て回答を求め、相手の意図を読み解く課題設定から失語症者における意図共有の困難を可視化してきた。
一方、他の中枢神経疾患においても、意図共有の困難が共通して観察される。多弁で流暢に話すも内容を伴わない右半球損傷者、生活範囲と経験の限定化により言語の汎用性が低下した認知症者、発話がすくむパーキンソン病者、発話そのものに疲弊する脊髄小脳変性症者があった。これらの症例は失語症状を欠くが、「産出に偏重し、相手からのフィードバックを得られず、修復や確認が不十分になる」という同じ構造が基盤に存在する。結果、共同で意図をすり合わせるプロセスが十分に機能しないと考えられる。
患者らは意図共有に必要な相手の情報に十分に注意を向けられず、相手の発話や共有された場面の影響を過剰に受け、発話量の増加や自己修復の繰り返しという代償戦略に依存する。こうした産出偏重のコミュニケーションは、相互推論プロセスの障害として観察される。
コミュニケーションのリハビリテーションでは、過去の経験に即した場面スクリプトを手がかりに、相手と相互に意図を推論し続ける課題設定が重要となる。多様な疾患に共通する“意図共有のプロセス”の障害を疾患横断的に捉える視点から、コミュニケーション障害の見えない病態を観ることについて議論したい。
