講演情報

[教育講演]スポーツと薬物治療~今、薬剤師に求められること~

笠師 久美子 (北海道医療大学 地域連携推進センター 特任教授・副センター長/北海道大学病院 スポーツ医学診療センター)
「スポーツと薬」と聞くと、「ドーピング」を思い浮かべる人も多いのではないかと思う。競技規則の1つとしてアンチ・ドーピングの順守が義務付けられているが、スポーツには競技スポーツのみならず健康スポーツの愛好者もいる。軽度の運動(スポーツ)を毎日続けることは、生活習慣病の予防と治療に効果的であると言われている。健康状態を把握せず高負荷の運動をすることは、特に循環器疾患患者や中高年齢者にとっては危険を伴う行為となる。薬物治療を受けている状況でのスポーツの実施においては、生体で生理学的な変動がおき、それに付随して薬物動態・薬理作用も変動する可能性があることから、薬物の影響を考慮すべき点がある。
 スポーツにおける薬の主な使用目的として、①現病に対する治療、②疾患や症状に対する予防、③スポーツに伴い発生した疾患や外傷に対する治療、④リハビリテーションの一環としての使用、そして⑤競技力を向上させるための誤用(ドーピング)などが挙げられる。
 スポーツと薬物治療を理解するには、スポーツ薬理学、さらに臨床スポーツ薬理学の知識が重要となる。スポーツ薬理学は薬理学をスポーツ医学や臨床医学、スポーツ科学、運動生理学等との関係から整理した学問であり、さらに医療や健康に貢献することを目指した学際的な研究分野が臨床スポーツ薬理学である。スポーツ薬理学はExercise and Sport Pharmacologyとして、薬物が運動にどのように影響するか、あるいは運動が薬物の作用にどのような影響を及ぼすかという視点から薬物治療を考える必要がある。
 例えば、患者が糖尿病罹患でありアスリートであった場合に、スポーツをしてはいけないのだろうか?患者それぞれの背景により対応が異なる部分はあるものの、専門医の下に血糖管理、低血糖や高血糖時の対応を含めた自己管理が大きなポイントとなる。一般的には1型糖尿病患者がインスリン投与にて運動をした場合に、血糖コントロールができないと運動誘発性低血糖に陥る危険性があるが、一方で高強度の運動により高血糖となる可能性もある。
 本講演では、臨床スポーツ薬理学に焦点をあて代表的な疾患と治療薬等を例に挙げながら運動(スポーツ)と薬物治療について考えたい。


【略歴】
1981年 3月 北海道薬科大学(現北海道科学大学)薬学部薬学科卒業
1981年 7月 札幌北楡病院、日本整形外科スポーツ医学会事務局等入職(~1990年)
1990年 9月 北海道大学歯学部附属病院薬剤部入職
2003年10月 北海道大学病院薬剤部副薬剤部長(~2019年)
2012年 3月 博士(歯学)取得(北海道大学)
2019年 4月 北海道医療大学薬学部 薬学教育推進講座 特任教授(~2025年)
2021年 6月 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会選手村医療課長
2025年 4月 北海道医療大学 特任教授、地域連携推進センター 副センター長

役員等
臨床スポーツ薬理学推進機構 研究会実行委員会委員、日本薬剤師会 アンチ・ドーピング委員会委員長、日本病院薬剤師会 国際交流委員会委員、日本スポーツ協会 理事、北海道スポーツ協会 副会長、日本自転車競技連盟アンチ・ドーピング委員会委員長、日本パラアイスホッケー協会 理事、公認スポーツファーマシストカリキュラム委員会委員等

所属学会
日本薬学会、日本医療薬学会、日本栄養治療学会、日本臨床スポーツ医学会他