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[教育講演]CKD診療における食事療法の位置づけ

菅野 義彦 (東京医科大学 腎臓内科学分野 主任教授)
昨今CKDに対して腎機能保護効果を示す薬剤が増えてきたが、従来は脂質異常に対するスタチン系薬剤や高血圧に対する多くの降圧薬のように、非常に効果の高い特効薬的なものがなかったために、腎臓病治療における食事療法の相対的な位置づけが下がっていない。慢性腎炎に由来する慢性腎不全が多数を占めていた時代と異なり、多くの腎臓病患者が糖尿病や高血圧などの末期像であることを考えれば、この患者像の大きな変化に即して、食事療法の考え方も必要な修正を行う方が良い。
 そもそも近年診療の根幹とされているガイドラインや基準は、診療に十分な知識と経験がない場合の最低限の拠り所であって、これを金科玉条として遵守しなくてはのちのち法的に罰を受けるというものではない。もちろんガイドラインに外れる診療を行う場合には、説得力のある根拠を示し、期待しない結果に対してはすぐに修正するためのモニタリングも必要である。またガイドラインに沿った診療を行う際にも、全員に対して記載通りの同じことをするのではなく、その記載が自分の患者の現在の状態に適応できるかどうかを検討したうえで施行すべきである。すなわち診療にあたって大切なのは、その患者の状態をきちんと把握し、いくつかあるアプローチからどれを選択し、何を指標に効果を検証するかということ、すなわち患者を総合的に管理するにあたりいくつもの考え方を持つことである。ガイドラインはその考え方の一つであるといってよい。
 食事療法にも摂取基準があり、ガイドラインにもたんぱく質の摂取制限が記載されているが、高齢者に多い併存症に対してはたんぱく質の摂取制限は避けるべきなのかもしれない。課題の多い高齢者の管理には医師の狭い視点だけでは気付かないことも少なくない。一般医家では各疾患について詳しい話は分からないし、その併存での優先度は判断できないかもしれない。また専門医は自分の専門外の疾患については判断が難しい。○○病だから、専門医だから、というような単純な理由で患者の生活に大きな影響を与える食事療法の方針を決めてはいけないというのが、昨今の高齢者診療に大切な視点といえる。


【略歴】
1991年 慶應義塾大学医学部卒業
1995年 慶應義塾大学大学院医学研究科所定単位取得中途退学
1996年 米国留学
1999年 埼玉医会大学腎臓内科助手
2010年 慶應義塾大学医学部血液浄化透析センター専任講師
2013年 東京医科大学腎臓内科主任教授
2018年 東京医科大学病院副病院長(2024年まで)
2024年 東京医科大学副学長補