講演情報

[LS3]摂食嚥下障害に関わる薬局(薬剤師)の役割と医薬連携~摂食嚥下障害の専門医から薬局(薬剤師)に期待すること~

木村 百合香 (昭和医科大学江東豊洲病院 耳鼻咽喉科 教授・診療科長)
誤嚥性肺炎とは、「誤嚥のリスクがある宿主に生じる肺炎」であり、高齢化の進む日本では死亡原因の第6位を占めている。とくに高齢者では慢性的かつ進行性の嚥下障害が背景にあり、その病態が明確にされないまま治療やケアが行われていることも少なくない。誤嚥性肺炎の“黒幕”は嚥下障害であり、これを理解・評価することは必須であり、根本的な対策となる。
 嚥下障害は、脳血管障害や神経変性疾患、認知症、頭頸部疾患、加齢、さらには薬剤の影響など多彩な要因で発症する。とくに咽頭期における嚥下機構の破綻が、誤嚥の直接的な原因となる。耳鼻咽喉科では嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を用いて嚥下機能を客観的に評価し、食事形態の調整、リハビリテーション、外科的介入など多角的な治療を行っている。
 嚥下障害診療には多職種連携が重要であり、薬剤師において求められる役割は、薬剤性嚥下障害および錠剤嚥下障害に対する理解と対応である。抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系薬、抗精神病薬などは嚥下反射や筋緊張、意識レベルに影響し、誤嚥を誘発する可能性がある。さらに、患者の約4割が錠剤・カプセルの嚥下困難を自覚しているとの報告もあり、服薬アドヒアランス低下や誤嚥・窒息のリスクが懸念される。PILL-5といったスクリーニングツールの活用や、剤形変更、服薬補助具の提案など、薬剤師による実践的対応が求められる。急性期から生活期までを見据えた多職種連携の中で、薬局においても嚥下障害と向き合う視点を持つことが、誤嚥性肺炎の予防と患者のQOL向上に大きく寄与する。


1998年3月 東京医科歯科大学医学部医学科卒業
1998年5月 東京医科歯科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科入局
2003年7月 東京都老人医療センター耳鼻咽喉科 医員
2004年4月 東京都健康長寿医療センター 医長
2015年9月 昭和大学医学部耳鼻咽喉科学講座 准教授
2017年4月 東京都立荏原病院 耳鼻咽喉科医長
2024年1月 昭和医科大学江東豊洲病院 耳鼻咽喉科教授 現在に至る

<資格>
医学博士(東京医科歯科大学,2008年)、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医,指導医
日本気管食道科学会専門医、がん治療認定医、嚥下相談医、日本耳科学会認定医
インフェクションコントロールドクター(ICD)、高気圧医学専門医

<受賞>
輝く耳鼻咽喉科女性賞2020 (日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)
Travel Award. 13th International Otopathology Society, 2013.(International Otopathology Society)

<所属学会>
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会,日本気管食道科学会(評議員),日本嚥下医学会(理事),日本喉頭科学会(評議員),日本口腔咽頭科学会(評議員),他