講演情報

[O-5-08]認知症患者とその家族への薬剤師の更なる関与

谷 博子 (臨床薬学懇談会)
【はじめに】認知症の確信的薬物療法が未だない現時点では、中核症状にはコリン作動薬やメマンチンの投与、更に周辺症状には向精神薬などを処方する方法がとられている。以前、著者は認知症への薬剤師の関与として、早期発見、処方の簡素化、家族への関与を提言したが、疾患上薬剤師の服薬指導は往々にして希薄になりがちであるのは否めない。今回著者は、抑うつ状態の改善という目的に処方されていた認知症患者の薬物療法がむしろ患者のQOL向上に逆行している可能性があるのではないかと、服薬指導を通して疑いを持ち医師に情報提供を行った。結果改善に至ったという事例を報告し認知症患者に対する薬物療法への薬剤師の関与の重要性をも考察したい。
【事例】X-7年より抑うつ症状に対しSNRIを投与されていた患者は、『いつも何もしていない』という無為な状態が依然として改善されていなかった。X-年に認知症と判断されドネペジルが追加処方され増量もなされたが、相変らず無為な生活を送る。著者はSSRI,SNRIの副作用でアパシーがあるという文献を入手し、X年医師にその旨を情報提供するとともにSNRIの減薬中止の検討依頼を行った。その後減量開始されSNRIが1/4量になった時点で患者は『花壇の手入れを始めそれが楽しくて仕方ない』と楽しそうに語るようになった。
【考察】認知症の中核症状や周辺症状に、患者の環境整備を行う前にまずは行われている薬物療法。しかしながら、事例のようにそれらは認知症の症状を悪化させる危険性もひめている。今後、益々増えていくと思われる認知症に対し、認知症に関する情報を常に入手し、薬理作用を知り尽くしている薬剤師はこれらがあくまでも短期的な対処薬であるという認識を持ち、漫然と投与されていないか、また患者のその症状が現行の薬物によるものではないかと、患者や患者家族に深く関与し処方薬を精査する必要があると考察する。