講演情報

[P-055-A]社会規範ナッジの利用による服薬意欲向上効果の実践的検証―臨床現場での心理学実験―

北御門 智世1, 吉田 暁2, 北村 哲1, 中井 雅智1, 青木 颯也2, 小山 雄大2, 堀口 真白2, 堀井 徳光2, 大島 新司2, 大嶋 繁2 (1.クリオネ(株), 2.城西大学薬学部)
【目的】高血圧や糖尿病などの慢性疾患において、薬の飲み忘れや自己中断は、死亡率や医療費の増加といった重大な問題を引き起こす。近年、心理学に基づく「ナッジ」が行動変容を促す手段として注目されており、発表者らの過去のオンライン調査では、社会規範を示すナッジが服薬意欲の向上に有効である可能性をしていた。そこで本研究では、慢性疾患患者を対象に、薬局窓口での服薬指導にナッジを取り入れることで、実際に服薬意欲が向上するかを臨床現場で検証した。
【方法】(株)クリオネの保険薬局19店舗において、高血圧・糖尿病・脂質異常症の新規治療を開始した患者を対象とした。初回処方時の服薬指導の前後に質問紙調査を実施し、社会規範ナッジの利用有無に基づき2群に割り付けた。ナッジ利用群では、服薬指導の最後に「この薬を飲んでいる人はとても多いです」というフレーズを加えた。本研究は、城西大学の「人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会」の承認を得て実施された。
【結果】慢性疾患の治療を開始した35名の患者(平均年齢62.9歳、女性15名)の回答を解析対象とした。服薬意欲が向上した割合は、ナッジ非利用群が37.5%、ナッジ利用群が52.9%であった。年齢、性別、疾患の種類、健康状態を統制した重回帰分析の結果、ナッジの利用が服薬意欲の向上に有意な影響を与えていた(p<.05)。
【考察】社会規範を示す簡潔なフレーズの追加によって、服薬意欲に肯定的な変化が生じた。他の患者も同様の治療を受けていると知ることで、患者に心理学的変化が生じたと考えられる。ナッジはコストや習熟経験を不要とする簡便な介入法として有用性が高いが、その倫理的是非については今後さらなる議論が必要だろう。今後は、効果の持続性および実際の服薬行動への影響について検証する予定である。