講演情報

[P-096-C]訪問拒否患者の信頼構築と血糖改善を得た独居高齢2型糖尿病の1例

林 輝明1,2 (1.(株)なの花西日本 なの花薬局 石見長久店, 2.兵庫医科大学大学院)
【背景】認知機能が低下した高齢糖尿病患者では、インスリン療法や煩雑な服用スケジュールによりアドヒアランス不良に陥るリスクが高い。今回、訪問介入に強い抵抗感を示していた患者に対し、薬局薬剤師が継続的に関わることで信頼関係を構築し、治療遵守および血糖コントロールの改善に寄与した症例を報告する。
【症例】症例は80歳代、女性。2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症を基礎疾患に有し、認知機能低下の影響から薬剤の自己管理が困難であった。主治医は、診察室内での薬剤調整のみでは服薬アドヒアランスの向上が見込めず、治療継続に対する限界を認識していた。また、患者が過去の介護経験を背景に他者の介入に強い拒否感を抱いており、在宅訪問薬剤管理指導にも否定的であった。そのため、「薬剤師の訪問を毎週継続し受け入れてもらうこと」を目標とし、患者の自尊心に配慮した初期対応を意識した。訪問の際は、E.H. Porterの態度分類に基づく「支持的態度」と「共感的態度」を用いた対応を実践した。具体的には、患者の感情に寄り添い、服薬に対する負担感に共感を示しながら、継続的に対話を重ねた。その結果、「服用回数が1日5回は多い」という主観的訴えを聴取することができた。1日3回の服薬から1日1回への処方簡素化を主治医に提案し、心理的な軽減を図った。患者の服薬遵守が改善したことで、HbA1cは介入前の10.3%から8.1%まで低下した。
【考察】本症例は、認知機能低下や心理的抵抗のある高齢患者においても、薬剤師が心理的背景や過去の経験に配慮した対応を行うことで、治療遵守および血糖コントロールの改善が可能であることを示した点で示唆に富む。また、処方の簡素化が患者の自己管理能力を引き出し、治療効果を高める手段となりうることを再認識した。患者自身も服薬の容易さを実感し、自主的な服薬意欲の向上が認められたと考えられる。