講演情報
[SSY-2]薬剤師の「裁量権」を論じる意義―プロフェッションの役割を法学の立場から考察する
○磯部 哲 (慶應義塾大学大学院 法務研究科 教授)

今回、「薬剤師の裁量権」に光を当てたいという細谷先生のご提案を受けて、法学の立場から何らかの応答を試みようとする演題である。裁量は、「①自分の意見によって判断し処置すること。きりもり。②〔法〕法律で認められた、行政権の一定の範囲内での判断、あるいは行為の選択の自由。→自由裁量」(『広辞苑〔第5版〕』)などと説明される。
【裁量権の目的・主体】もっとも今回は、行政権ではなく薬剤師の裁量の話であるが、大雑把に言ってしまえば、法律によって一定の役割と判断を委ねられているのは、その専門的な見地からの判断が不可欠であるからであり、まさにその判断をすべき専門家として薬剤師や医師などがいるはずである。どうして法は、医薬のプロフェッションの裁量に期待しているのか。それはどのような文脈で、どういう結果を期待してのことかをまず確認することとしたい。これらはある程度は法的にも説明ができる事がらであろう。
【裁量権の行使】専門家の判断が裁量権の行使としてされたことを前提として、その適否が例えば裁判で問題になった時にはどのように審査されることとなるか。基礎とされた重要な事実に誤認などがないか、事実に対する評価が明らかに合理性を欠いてないか、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかったり、考慮してはならないことを考慮したりしていないか等、判断過程の合理性について十分な説明ができるかがチェックポイントとなる。結論的に、その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合には、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると考えられるが、実際には裁量権行使の違法性が問題となるケースは多くはないであろう。
【プロフェッションの職業上の義務と自己規律のあり方】日本的な調剤業務の独占と分担、医薬分業のあり方などを前に、裁判の場面というよりは、日々の臨床の場でどのように薬剤師と医師らがお互いの裁量権を尊重し、連携・協働しながら患者さんの健康に資する業務を展開できるかが問われているのであろう。「裁量権」の適正な行使は「職業上の義務」であるとさえ考えているが、あらためてこの機会に、プロフェッションとしての薬剤師の職業上の義務のとらえ方や自己規律のあり方について、法的観点から考察をしていきたい。
【略歴】
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒、2000年一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了・博士(法学)。現在、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授、東京科学大学客員教授。専攻は行政法、医事法。日本公法学会理事、日本医事法学会理事。中央労働委員会公益委員、医薬品等行政評価・監視委員会〔委員長〕、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会、国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会、医療広告協議会〔座長〕、予防接種リサーチセンター予防接種ガイドライン等検討委員会の各委員等。
【裁量権の目的・主体】もっとも今回は、行政権ではなく薬剤師の裁量の話であるが、大雑把に言ってしまえば、法律によって一定の役割と判断を委ねられているのは、その専門的な見地からの判断が不可欠であるからであり、まさにその判断をすべき専門家として薬剤師や医師などがいるはずである。どうして法は、医薬のプロフェッションの裁量に期待しているのか。それはどのような文脈で、どういう結果を期待してのことかをまず確認することとしたい。これらはある程度は法的にも説明ができる事がらであろう。
【裁量権の行使】専門家の判断が裁量権の行使としてされたことを前提として、その適否が例えば裁判で問題になった時にはどのように審査されることとなるか。基礎とされた重要な事実に誤認などがないか、事実に対する評価が明らかに合理性を欠いてないか、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかったり、考慮してはならないことを考慮したりしていないか等、判断過程の合理性について十分な説明ができるかがチェックポイントとなる。結論的に、その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合には、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となると考えられるが、実際には裁量権行使の違法性が問題となるケースは多くはないであろう。
【プロフェッションの職業上の義務と自己規律のあり方】日本的な調剤業務の独占と分担、医薬分業のあり方などを前に、裁判の場面というよりは、日々の臨床の場でどのように薬剤師と医師らがお互いの裁量権を尊重し、連携・協働しながら患者さんの健康に資する業務を展開できるかが問われているのであろう。「裁量権」の適正な行使は「職業上の義務」であるとさえ考えているが、あらためてこの機会に、プロフェッションとしての薬剤師の職業上の義務のとらえ方や自己規律のあり方について、法的観点から考察をしていきたい。
【略歴】
1995年慶應義塾大学法学部法律学科卒、2000年一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了・博士(法学)。現在、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授、東京科学大学客員教授。専攻は行政法、医事法。日本公法学会理事、日本医事法学会理事。中央労働委員会公益委員、医薬品等行政評価・監視委員会〔委員長〕、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会、国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会、医療広告協議会〔座長〕、予防接種リサーチセンター予防接種ガイドライン等検討委員会の各委員等。
