講演情報

[SY11-2]医薬品流通の現状と課題~出荷調整に対する医薬品卸の対応~

松田 茂 (一般社団法人日本医薬品卸売業連合会/卸・薬価問題検討委員会委員長)
医薬品流通の現状と課題の中で大きなウエイトを占めているのが「出荷調整対応」であります。令和7年3月の厚生労働省による医薬品供給にかかる調査結果では、供給停止の医薬品のうち、解消見込未定との回答が7割以上を占め、限定出荷の医薬品についても解消見込未定との回答が9割以上を占めていました。また、供給停止・限定出荷の具体的な品目数の推移を見てみると、依然として2,000品目を超える高い数字となっております。
 このような中、卸の現場でどのような事が起こっているかをご説明しますと、製薬企業から仕入れることが出来ず欠品が起きると、出荷情報の収集、代替医薬品の確保、医療機関・薬局への連絡など、需給調整の対応に多くの時間とコストをかけ対応します。また製薬企業に対し、特に代替品を製造している企業に増産の要請や調整を行います。このような業務を6年近く行なっている影響で、MSをはじめとした営業現場の負担が蓄積され、将来展望を描けず離職するケースが増えています。また、医薬品卸の経営面にも大きく影響をもたらしております。民間の調査会社に需給調整のコストを算出してもらった結果、医薬品卸だけで年間548億円相当という試算が出ております。負担とコストが重くのしかかっているのが医薬品卸の現状です。
 その上で卸連合会がどのように行政へ主張を行ってきたかを紹介します。全体の2割以上を占める限定出荷品のうち、薬価20円未満の低薬価品は8割を超える高い数字となっておりました。医薬品の安定供給確保の観点から、薬価を引き上げていただきたいという主張を中医協意見陳述の場で行なって参りました。その結果、2025年4月の中間年の薬価改定で、最低薬価品の薬価上昇に微力ながら繋がったものと考えております。
 医療用医薬品の流通は、公定価格制度の中にある為、人件費や燃料代高騰などの社会的インフレを価格に反映しにくい構造となっている一方で、一般の流通と比較し効率化・省力化が図れる余地が多く存在するという見方もされております。安定供給を維持しつつ、流通効率化を実現する事が、広く国民への還元に繋がるものと考えております。
 医薬品卸の使命は、平時有事問わず、人々の命と健康を支える医薬品を安全かつ安定的にお届けすることです。後発医薬品の需給調整など厳しい状況下にあっても、医療の一翼を担う者として、国民の皆様の安心・安全な医療に貢献して参ります。


【略歴】
2016年1月 一般社団法人日本医薬品卸売業連合会「卸・薬価問題検討委員会」委員就任
2021年3月 一般社団法人日本医薬品卸売業連合会「卸・薬価問題検討委員会」委員長就任