講演情報

[SY2-1]薬局管理栄養士の現状と可能性:供給側と需要側の調査から見えてきた課題

木﨑 速人 (慶應義塾大学 薬学部 医薬品情報学講座 助教)
地域薬局には,医薬品供給の拠点としてだけでなく,地域住民の健康維持・増進を積極的に支援する役割が期待されている.特に生活習慣病の予防や重症化防止において,日常の食生活への介入は極めて重要であり,食と栄養の専門職である管理栄養士の薬局における活躍が求められている.しかし,その配置は未だ限定的であり,管理栄養士が持つ専門性が地域の中でどのように活かされているのか,また,住民が実際にどのような栄養課題を抱えているのか,その実態は十分に明らかではなかった.
 我々が過去に実施した調査では,薬局における供給側と需要側の双方に課題が存在することが見えてきた.供給側の調査として,薬局に勤務する管理栄養士と薬剤師を対象としたアンケート調査では,管理栄養士が高い専門性を有する一方で,半数以上がその職能を十分に発揮できていないと感じている実態が明らかになった.その背景には,栄養相談の機会不足や,薬剤師との連携が円滑に進んでいないといった薬局の課題が存在することが示唆された.
 一方で,都市部薬局利用者や中山間地域住民を対象とした需要側の調査からは,彼らが抱える栄養課題の多様性と複雑さが明らかになった.アンケート調査を通じて住民の栄養バランスの偏りが確認されるとともに,食生活と口腔機能低下の関連性も確認された.さらに,中山間地域における食料品へのアクセス困難と高血圧患者における食塩の過剰摂取等に関連が見られた.このような,地域住民が抱える栄養に関する多様な課題に対して,専門家による栄養相談への高い潜在的ニーズが確認された.
 これらの調査結果は,薬局という供給側では管理栄養士の専門性が活かしきれていない現状と,地域という需要側には未解決の多様な栄養課題と支援へのニーズが存在する「需給のミスマッチ」があることを明確に示している.本講演では,これらの供給側・需要側の調査から得られた具体的な事例を共有することで,薬局の管理栄養士が地域の健康課題解決に貢献しうる大きな可能性を秘めていることを示したい.そして,薬剤師との協働を推進していく上で,我々がまず向き合うべき現状と課題は何かを明らかにし,本シンポジウムにおける議論の端緒としたい.


【略歴】
2016年 3月 東京大学大学院薬学系研究科 修士課程修了
2016年 9月 東京大学大学院薬学系研究科 博士課程
2018年11月 慶應義塾大学薬学部 助教
2024年11月 博士(薬科学)