講演情報

[SY5-3]診る力が支えるProblem-Basedフォローアップ:薬剤師の価値を引き出す実践力

佐藤 ユリ (株式会社KTSプラン 代表取締役)
服薬フォローアップが制度化され、薬剤師による継続的な支援が求められる中で、その質を左右する鍵は「診る力」である。薬剤師は薬を見るだけではなく、患者を診る専門職として、薬物療法に伴う問題に気づき、評価し、判断して支援する力が求められている。患者に薬物療法を安全かつ効果的に継続してもらうためには、処方時の服薬指導だけでなく、服用後の状態を確認し、必要に応じた継続的な関与が不可欠である。フォローアップを形式だけのものにせず、実効性のある支援とするためには、“問題”から始めるProblem-Based(問題起点型)の視点が重要である。
 Problem-Basedフォローアップとは、処方や検査値では見えにくい生活背景や環境に潜む問題を把握し、患者に起こり得るリスクや服薬の障害に対して先回りして支援を行う姿勢である。たとえば、メトホルミンを服用中の糖尿病患者にSGLT2阻害薬が追加されたケースでは、利尿作用によって脱水が進行し、腎機能が低下することで乳酸アシドーシスのリスクが高まる。特に夏場で屋外作業を行う患者であれば、発汗や水分補給の状況を含めた生活環境の確認が必要となる。また、タクシー運転手のように勤務中にトイレに行きにくい職業では、頻尿による不安から水分摂取を控えたり、服薬を中断したりしてしまうおそれもある。こうした背景に対して、「なんか気になる」「もしかして」という違和感を大切にし、それを確認と行動につなげていくことが、Problem-Basedフォローアップの本質であり、診る力の実践である。
 薬剤師が患者の生活、職業、季節、服薬状況、薬剤の作用を総合的に捉える視点を持つことで、薬物療法の安全性と質は大きく向上する。それは薬剤の価値を最大限に引き出すだけでなく、薬剤師自身の専門性を患者や多職種に伝える機会にもつながっていく。
 診る力は、知識のみで身につくものではなく、現場での経験や他の薬剤師との実践の共有を通して少しずつ育まれていく。気になる患者に出会ったときは、仲間に相談したり、症例を持ち寄って意見を交わしたりするような場が、診る力を養ううえで有効と考える。制度として整備されたフォローアップを、現場で“意味ある行為”として根づかせていくために、一人の薬剤師が患者にどう向き合うか──そのような姿勢の積み重ねが、これからの薬剤師の専門性と価値を育てていくものと考える。


【略歴】
現職:株式会社KTSプラン代表取締役、NPO法人どんぐり未来塾代表理事
1990年 東北医科薬科大学卒、1990年 東北医科薬科大学物理学教室助手、 1996年 株式会社プリスクリプション・エルム&パーム入社、2014年 NPO法人どんぐり未来塾設立 代表理事に就任、2017年 医療情報提供サービス会社として株式会社KTSプラン設立