講演情報

[SY5-4]日々の患者フォローアップをどう振り返るか:記録の可視化と共有による価値創出

堀 里子 (慶應義塾大学薬学部 薬学科 医薬品情報学講座 教授)
患者フォローアップは,薬剤師の専門性を活かした価値ある業務として着実に進展している.一方で,実際の現場では多様な患者背景や課題に直面しながら,日々フォローアップの方法やタイミングなど様々な工夫を加えながら取り組んでいるのが実情であろう.こうした状況を踏まえ,より良いフォローアップを実現するためには,現場の知見や経験を共有し合うことが重要である.さらに,フォローアップを軸として薬剤師業務全体を振り返り,改善につなげていく視点を持つことが,実践の質を高める鍵となる.
 我々は,薬歴の自由記載に含まれる患者の症状などの主観的情報(S記述)を構造化・分析するとともに,アセスメント(A)記述などから薬剤師の評価・介入内容を捉える手法を構築し,薬剤師の支援の可視化と質の改善につなげる研究に取り組んできた.これにより,薬剤師が患者に寄り添った継続的なフォローアップを行うための判断材料を記録から抽出できる可能性が示唆されている.また,2022年より継続して開催しているフォローアップ研究会では,成功例に限らず現場での困りごとを含む多様な事例を参加者同士で検討しており,こうした実践的な共有の場が地域や各薬局にも広がることで,質の高いフォローアップの推進が期待される.
 フォローアップは,薬剤師が患者と「点」ではなく「線」で継続的に関わるうえで,本来不可欠であり,薬剤師業務の根幹をなす行為である.その質をさらに高めていくためには,どのようなフォローアップが適切で効果的なのかを知り,それを日々自ら振り返る視点を持つことが重要である.また,個々の薬剤師の線としての関わりが蓄積され,薬局と病院・診療所・介護施設などの各現場における多職種との連携を通じて「面」として広がることで,地域全体の医療連携の質の向上にもつながる.薬剤師一人ひとりが実践を見つめ直し,自信を持ってフォローアップに臨むための一助となるよう,当日は研究成果とその活用の可能性,そして今後の展望についてお話しする予定である.


【略歴】
1997年 東京大学薬学部卒業
1999年 東京大学大学院薬学系研究科修了
1999年 東京大学医学部附属病院 薬剤部 助手
2001年 東北大学大学院薬学研究科 助手
2005年 博士(薬学)取得
2005年 東京大学大学院薬学系研究科 特任助手
2008年 東京大学大学院薬学系研究科 特任講師
2009年 東京大学大学院情報学環 准教授(大学院薬学系研究科 特任准教授併任)
2018年 慶應義塾大学薬学部 教授
現在に至る.
情報学を基盤とした学際的なアプローチで,薬物治療の個別最適化や医療安全に関する研究に取り組む.2011年より患者と医療者の対話の場「ペイシェントサロン」の活動を続けている.
所属学会・役職等:日本医薬品情報学会(理事),日本薬学会(代議員),日本医療薬学会(代議員),日本人工知能学会