特別セッションのご案内
本会では以下の3つの特別セッションを予定いたします。(2026/6/10更新)
▶特別セッション1(日本学術振興会「国際先導研究」共催)
| 開催日時 | 7月8日(水)13:15〜14:15 |
| 分野 | 臨床・公衆衛生医学 |
| 座長 | 佐藤 佳(東京大学医科学研究所) 西浦 博(京都大学大学院医学研究科) |
| 演者 | 矢吹 陽子(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ワクチン等審査部) 今中 雄一(京都大学大学院医学研究科ヘルスセキュリティーセンター) |
| 演題・抄録 |
「感染症予防ワクチンの開発における医薬品医療機器総合機構(PMDA)の役割」(矢吹 陽子 先生) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、感染症対策における医薬品・ワクチン開発と規制の在り方、並びに平時から備える重要性を改めて浮き彫りにした。本講演では、パンデミック時の健康危機管理に関する研究・政策の一環として、感染症予防ワクチンの承認審査を中心に、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が担う役割を、大学・研究機関等のアカデミアによるワクチン開発に対する支援の仕組みを交えて紹介する。 PMDAは、医薬品・医療機器・再生医療等製品等の承認審査、安全対策、健康被害救済の三業務を一体的に担う我が国唯一の公的機関として、研究開発初期から市販後まで一貫して関与している。医薬品等の有望なシーズを有するアカデミアやベンチャー企業に対しては、平時から、レギュラトリーサイエンス(RS)戦略相談を通じて、品質、非臨床試験、早期臨床試験計画等に関する助言を行い、実用化を支援している。ワクチンについても、大手製薬企業だけでなくアカデミアやベンチャー企業での開発も活発になっていることから、こうした取組みの重要性が増している。 COVID-19パンデミックにおいて、PMDAは国内でのSARS-CoV-2ワクチンの開発に求められる有効性及び安全性の評価における考え方の公表及び変異株出現等の状況変化に応じた考え方のアップデート(補遺の作成)、専用相談枠の設置、治験開始の迅速化、特例承認制度や国際連携の活用等、前例のない対応を行った。また、これらの経験から、パンデミック時には最初の承認がゴールではなく、変異株対応や接種対象の拡大等、段階的な開発・評価が求められること、市販後の安全対策並びに情報収集が重要であること、平時からの研究基盤整備が不可欠であること等が明らかとなった。 今後は、本年3月に閣議決定された「感染症危機対応医薬品等(ワクチン、治療薬、診断薬等)開発・生産体制強化戦略」に基づき、新規モダリティやプロトタイプワクチンに対応したガイドラインの整備、先進的研究開発戦略センター(SCARDA)との連携強化等を行う予定である。こうした取組みを行うことにより、将来のパンデミックへの備えとしてPMDAが果たすべき役割を全うしパンデミックにおけるワクチン開発を促進することで、アカデミアを含むワクチン開発者とともに本邦の健康危機管理に貢献したい。
「パンデミックを礎とした健康危機管理の展開」(今中 雄一 先生) COVID-19パンデミックは、我が国の医療・公衆衛生システム、そして科学的知見を政策決定へ有効に反映し社会実装する仕組みの課題を浮き彫りにした。人々の健康と社会経済活動に多大な影響を及ぼす感染症蔓延や大災害等の健康危機に対し、社会システム全体を見渡しての有効な施策パッケージを設計・実装するフレームワークが必要となる。 ここでは、多視点(各省庁、都道府県、市町村、保健所、医療団体、医療機関、政府、各政党、各産業、市民)と多機能(検査体制、データ・情報の公開・発信・説明責任、感染対策と経済対策のバランス、関連施策群全体のガバナンス、ICTやデータ活用、行政・医療機関・企業・市民等の連携体制・協働スキーム、手続き等効率化等)における施策が包括的に設計・実装されることとなる(2022年度厚労科研-門田班 社会医学グループ「COVID-19諸施策フレームワークの構築:危機管理とポストコロナ時代を見据えて」報告書)。多セクターの関係者の連携・協働、事前準備・計画・訓練、科学的情報を政策決定に円滑に入れ込めるしくみ、迅速な科学的知見の創出・提示などが重要となる。
パンデミックの経験・教訓を礎に約3年の準備・下ごしらえを経て概算要求を実現し2024年度より京都大学ヘルスセキュリティセンターが設立され始動した。当センターは、オールハザード・アプローチを基軸とし、感染症対策に加え、自然災害、CBRNE災害など突発的な危機事象や、薬剤耐性、気候変動、財政逼迫・人口減少など静かに進む危機をも対象として研究、人材育成、実践、政策貢献の拠点を目指している。 当ヘルスセキュリティセンターは、予防Prevention、備えPreparedness、対応Response、復旧・復興Recovery and Reconstructionの全過程を包含し、医学・公衆衛生、工学、社会科学、行動科学、経済学、政策科学など多分野の連携を実現する。国内・国外の大学、国際機関、行政機関、医療機関とのネットワークを強化し、科学的知見の創出、政策提言、実践的技術開発、人材育成を推進している。一例としてHealth Security Leadership Programを学内院生、学外(履修証明プログラム)に向けて開発・実装している。当センターの現状・展開や関連する研究・人材育成面の成果を報告し論じる。 |
▶特別セッション2(日本学術振興会 研究拠点形成事業 Core-to-Core Program「ウイルスの二面性の理解・活用のための国際研究拠点形成」共催)
| 開催日時 | 7月8日(水)16:45〜17:45 |
| 分野 | 感染症創薬 |
| 座長 | 橋口 隆生(京都大学医生物学研究所) 前仲 勝実(北海道大学大学院薬学研究院) |
| 演者 | 佐名木 孝央(塩野義製薬株式会社 創薬研究本部 創薬疾患研究所 感染症2) 桜井 努(富士フィルム富山化学株式会社) |
| 演題・抄録 |
「広範なSARS-CoV-2変異株に対するペプチド阻害剤S-880008の創製」(佐名木 孝央 先生) 2019年12月に突如発生した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2) 感染症について、世界保健機関 (WHO) は2020年3月に「パンデミック」を表明した。これまでに、WHOに報告されているSARS-CoV-2感染症による世界の累計死者数は2026年4月時点で700万人を超え、SARS-CoV-2感染症は人々のライフスタイルに多大な影響を及ぼしている。SARS-CoV-2は発生以後、急速なウイルス変異を遂げ、オミクロン株が主流となった今、SARS-CoV-2に対するワクチンや治療薬の普及、臨床症状の軽症化による重症化率や死亡率の低下を受け、WHOは2023年5月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を発表した。日本でも同時期に、SARS-CoV-2感染症は2類感染症からインフルエンザ感染症と同じ5類感染症に移行された。しかし、SARS-CoV-2感染症による入院患者数や死亡者数は高いままであり、SARS-CoV-2感染症は依然として公衆衛生上の重大な課題である。 塩野義製薬は抗インフルエンザ治療薬の開発を目的として、2006年から北海道大学との共同研究を開始した。本共同研究を基盤として、SARS-CoV-2感染症の発生後、速やかにSARS-CoV-2を入手し、2020年4月から抗SARS-CoV-2治療薬の創薬研究を開始した。創薬研究を開始してから1年後の2021年4月に、SARS-CoV-2変異株に対して広域抗ウイルス活性を有するペプチド化合物S-880008が同定された。S-880008はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を標的分子とするが、同じくスパイクタンパク質を標的分子とするSARS-CoV-2中和抗体とは結合様式が全く異なり、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン (RBD) と隣接するN末端ドメイン (NTD) との間に深く結合するという、ペプチド化合物ならではの非常にユニークな結合様式がクライオ電子顕微鏡解析により明らかとなった。また、S-880008 は、SARS-CoV-2感染細胞系においてオミクロン株を含む広範な SARS-CoV-2 変異株に対して抗ウイルス活性を示し、SARS-CoV-2感染マウスモデルにおいて経鼻投与による用量依存的な肺内ウイルス力価の抑制効果を示した。さらに、作用機序解析から、宿主細胞へのウイルス吸着過程を阻害するのではなく、ウイルス吸着後の宿主細胞膜との融合過程を阻害することが示唆された。 本講演では、S-880008の創製を通じて、製薬企業とアカデミアの協奏の重要性について紹介する。
「ファビピラビル (アビガン錠) SFTS適応取得までの経緯 2024年6月,ファビピラビル (アビガン錠) は重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染症(SFTS, Severe fever with thrombocytopenia syndrome) に対する追加効能・効果の承認を取得した。2012年1月に国内で初めてSFTS患者が確認されてから12年が経過し,致命率が27~31%と推定される本感染症に対する治療薬がようやく実用化された。 SFTSに対するファビピラビルのin vivo研究は2014年から国立感染症研究所で開始された。I型インターフェロン受容体欠損マウスを用いた検討により,生存率および体重減少率の改善において,リバビリンに比べてファビピラビルが有意に優れた治療効果を示すことが明らかとなった。 この成果を受けて,愛媛大学を事務局とする多施設共同の特定臨床研究が2016年から開始された。この臨床研究は,西日本を中心とする39の医療機関が参加する,比較的大きな規模で行われた。本研究では23名のSFTS患者にファビピラビルが使用され,28日目までの患者致命率は17.4% (4/23) であった。生存した患者に重篤な有害事象はなく,全例で投与早期からウイルス量の減少が認められた。 企業治験は2018年から開始された。この治験でも23名のSFTS患者にファビピラビルが使用され,28日目までの患者致命率は13.0% (3/23) で,臨床研究の成績とほぼ同様であることが確認された。また,治験開始前のPMDA助言に従い,ファビピラビル非投与時のデータ収集を目的に,本治験に参加した医療機関に対して後方視非介入観察研究も行った。この観察研究では78名の患者データが収集され,傾向スコアマッチングにより,ファビピラビルはSFTS患者の致命率を非投与時と比較して半減できる可能性が示唆された。 以上の経緯のように,SFTSに対する治療薬開発は,基礎及び臨床の多くの先生方の成果を基盤として進められたものである。SFTSのような希少かつ致命率の高い新興感染症では,疫学情報を含めて開発計画策定に利用可能なデータが乏しく,開発企業だけで成し遂げることは困難と思われる。今回の発表では,基礎検討から特定臨床研究,そして企業治験へと紡ぐことで得られたファビピラビルの有効性を報告するとともに,このような感染症を対象とした治療薬開発における課題についても紹介したい。 |
▶特別セッション3(日本学術振興会「国際先導研究」共催)
| 開催日時 | 7月9日(木)13:15〜14:15 |
| 分野 | 基礎ウイルス・免疫学 |
| 座長 | 濱崎 洋子(京都大学iPS細胞研究所) 橋口 隆生(京都大学医生物学研究所) |
| 演者 | 上野 英樹(京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学) 竹田 誠(東京大学大学院医学系研究科 微生物学) |
| 演題・抄録 |
「KICにおける次世代パンデミック対策に向けた免疫データ基盤の構築」(上野 英樹 先生) 政府は、感染症有事における迅速なワクチン開発の推進を目的として、先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を新設し、ワクチン開発および生産体制の強化に向けた国家戦略「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業」を開始した。本事業の一環として、京都大学ヒト免疫サポート機関は、ワクチン開発を強力に支援する基盤として、京都大学免疫モニタリングセンター(Kyoto University Immunomonitoring Center: KIC)を設立した。 次のパンデミックがいつ発生するかは予測困難である。その中で、重症化リスクの高い集団の特定、そのリスクを規定する要因の解明、さらにはそれらのリスクを低減する方策の確立は喫緊の課題である。また、個々人に対して有効なワクチン設計のあり方や、「ワクチンが有効である」と評価するための免疫学的指標についても、未解決の問題が多く残されている。KICは、これらの課題に体系的に取り組むことが、平時からのパンデミック対策として極めて重要であると考えている。
ヒトは、マウスなどの動物モデルとは異なり、長い人生の中で多様な感染症への曝露や複数回のワクチン接種を経験する。さらに、食生活や生活環境は地域や個人ごとに大きく異なり、近年ではゲノムの多様性に加えて、免疫システムにも大きな個体差が存在することが明らかとなってきた。したがって、今後はヒト検体を用いた個体差の精緻な評価、すなわち免疫多様性の理解が不可欠である。 KICでは、「免疫モニタリング」を中核概念として、個々人の免疫システムを対象とした詳細な解析を推進している。ヒト検体に基づく精密な研究を通じて、次のパンデミックにおいて一人でも多くの命を救うために必要な知見の創出と集積を目指す。さらに、その延長として「ヒト免疫システムの包括的理解」を掲げ、AMED SCARDA事業に参画する拠点・機関との連携に加え、国内外の研究者・大学・研究機関との協働を推進し、得られた知見と成果を広く社会および国際社会へ発信していく。
「イヌジステンパーウイルスの霊長目動物における感染拡大とヒト受容体利用能の獲得」(竹田 誠 先生) 麻疹ウイルスは、パラミクソウイルス科のモルビリウイルス属に属するヒトの急性感染症ウイルスであり、強い伝染力と病原性を示します。細胞表面のSLAMを受容体として利用し、免疫細胞に感染することが主な特徴です。モルビリウイルスには、麻疹ウイルス以外にも、さまざまな哺乳動物に感染するウイルスが知られています。 その中でも犬ジステンパーウイルス(CDV)は、主に食肉目イヌ科動物を宿主とするウイルスですが、近年では大型ネコ科動物を含む多くの食肉目動物へと宿主域を拡大しています。さらに、2006年から2008年にかけて、CDVによるマカク属サルへの致死的感染アウトブレイクが、中国および日本で発生しました。その後の我々の研究により、CDVがマカク属サルのSLAMを利用する能力を有することが明らかとなり、これがアウトブレイクの一因であると考えられました。一方で、ヒトのSLAM受容体を利用する能力は持たないことから、ヒトへの感染リスクは低いと考えられてきました。 しかしながら、2018年から2022年にかけて、ブラジルにおいてCDVによるマーモセット属サルに対する急性脳炎を伴う致死的アウトブレイクが少なくとも2度報告されました。ブラジルの都市部では野生マーモセットが多数生息しており、人間活動圏に近接した環境で生活していることが知られています。また、これらの地域では犬におけるCDVの流行が確認されており、マーモセットへの適応が促進された可能性が示唆されます。 我々の解析から、従来のCDVはマーモセットSLAMを利用できない一方で、これらの流行株はマーモセットSLAMに高度に適応しており、さらにヒトSLAMの利用能も同時に獲得していることが明らかとなりました。すなわち、これらのウイルスは従来のCDVとは異なり、霊長類のSLAMに適応した変異型CDVであると位置付けられます。本講演では、マーモセット適応型CDVの受容体利用能について報告いたします。 |
