講演情報
[R1-11]熱伝導率、帯磁率、反発硬度などを用いた糸魚川産ひすい輝石岩の新たな同定方法の開発
*小河原 孝彦1 (1. フォッサマグナミュージアム)
キーワード:
糸魚川ユネスコ世界ジオパーク、ひすい輝石岩、熱伝導率、帯磁率、反発硬度
1 はじめに
ヒスイは,ひすい輝石を主成分とするが,共生鉱物等によって多様な外観を呈し,流紋岩,キツネ石(リスベナイト),ロジン岩,曹長岩,石英,チャートなど,外観がヒスイと酷似した岩石も数多く存在する.糸魚川フォッサマグナミュージアムでは,来館者の持参した石を同定する「石の鑑定」を実施しているが,利用者の目的のほとんどは採取した岩石がヒスイか否かであり,博物館では小河原(2018)などで,安易なヒスイ同定方法の開発を進めている.
従来,ヒスイを含む岩石の同定には,肉眼鑑定のほか,組成分析,粉末X線回折などが用いられてきたが,糸魚川の海岸で石探しをする観光客に上記のような手法は困難である.しかし,ダイヤモンドの同定には,非常に高い熱伝導率1000-2000W/(m・K)を利用した安価なダイヤモンドテスターが普及しており,ヒスイも岩石としてはやや高い熱伝導率2.1-6.6 W/(m・K)をもつ(Robertson, 1988).また,鉱物や岩石の持つ性質は熱伝導率だけではなく帯磁率や反発率等もあり,これらはインターネット上で比較的安価な測定器を購入することができる.
よって,本研究では,糸魚川の海岸で石探しをする観光客でも入手可能な機器を使用し,熱伝導率や帯磁率,反発硬度でヒスイと類似した岩石を区別できるか検討した.
2 試料および測定方法
本研究で用いた試料は,当館が所有する新潟県糸魚川市の海岸で採取したヒスイ並びに類似岩石である.ヒスイ(120点),流紋岩(100点),キツネ石(100点),ロジン岩(100点),曹長岩(50点),および石英(22点)を測定した.試料は,研磨等はせず,1試料につき1回測定した.キツネ石は緑色部分,ロジン岩は白色部分を分析点とした.熱伝導率の測定には,Presidium社製Duo Tester IIのメーター部分を10段階に区分して利用した.帯磁率の測定には,Geofyzika社製Kappa meter KT-6を使用した.また,反発硬度の測定は,RWBN社製デジタルコンクリートテストハンマー HD-225Cを用いた.いずれの装置も,インターネット上にて10万円以下で入手可能である.
3 結果
熱伝導率は,Duo Tester IIのメーターを10段階で読み取ると,ヒスイが平均3.441で分散0.263,流紋岩が平均2.014で分散0.108,キツネ石が平均2.357で分散0.311,ロジン岩が平均2.049で分散0.249,曹長岩が平均1.708で分散0.325,石英が平均3.872で分散0.295となり,ヒスイと石英の熱伝導率が流紋岩やキツネ石,ロジン岩,曹長岩と比較して高くなった(図1).また,細粒なヒスイが平均3.45で分散0.252,粗粒なヒスイが平均3.15で分散0.09となった.Welchのt検定を実施したところ,ヒスイと流紋岩(t(205) 24.91, p<6.08×10-64),キツネ石(t(204) 14.87, p<2.29×10-34),ロジン岩(t(213) 20.32, p<9.21×10-52),曹長岩(t(84) 18.57, p>1.72×10-31),石英(t(28) -3.54, p<0.0017)だった.
帯磁率は,ヒスイが平均0.0155×10-3 SI,流紋岩が平均0.0139×10-3 SI,キツネ石が平均0.0266×10-3 SI,ロジン岩が平均0.0205×10-3 SI,曹長岩が平均0.0034×10-3 SI,石英が平均0.004×10-3 SIであった(図2).
反発硬度については,HD-225Cを使用したが,測定の岩石が小さく,有効な数値を出すことができなかった.
4 考察
Robertson (1988)によれば,各岩石の熱伝導率は,ヒスイ2.1-6.6 W/(m・K),流紋岩1.0-3.3 W/(m・K),曹長岩2.1 W/(m・K),石英(水晶)6.2-10.7 W/(m・K)とされる.Duo Tester IIでは熱伝導率の絶対値を測定できないが,Robertson (1988)の測定結果と調和的であり,インターネット上にて入手可能な装置でも,半定量的に熱伝導率の計測が可能であった.また,t検定で有意な差があり,Duo Tester IIによる熱伝導率の測定でヒスイと類似した岩石が区別可能であるといえる.
肉眼鑑定でヒスイとした岩石の熱伝導率が低い場合,曹長岩やロジン岩に含まれる熱伝導率が低い鉱物が混入していることを示す可能性がある.この場合,ヒスイ輝石の含有量を熱伝導率から推測できる可能性もある.
帯磁率は,ヒスイを含めいずれも低く有意な差を見いだすことはできなかったが,ネフライトと蛇紋岩,緑色岩,泥岩等の分類に使用できる可能性がある.
ヒスイは,ひすい輝石を主成分とするが,共生鉱物等によって多様な外観を呈し,流紋岩,キツネ石(リスベナイト),ロジン岩,曹長岩,石英,チャートなど,外観がヒスイと酷似した岩石も数多く存在する.糸魚川フォッサマグナミュージアムでは,来館者の持参した石を同定する「石の鑑定」を実施しているが,利用者の目的のほとんどは採取した岩石がヒスイか否かであり,博物館では小河原(2018)などで,安易なヒスイ同定方法の開発を進めている.
従来,ヒスイを含む岩石の同定には,肉眼鑑定のほか,組成分析,粉末X線回折などが用いられてきたが,糸魚川の海岸で石探しをする観光客に上記のような手法は困難である.しかし,ダイヤモンドの同定には,非常に高い熱伝導率1000-2000W/(m・K)を利用した安価なダイヤモンドテスターが普及しており,ヒスイも岩石としてはやや高い熱伝導率2.1-6.6 W/(m・K)をもつ(Robertson, 1988).また,鉱物や岩石の持つ性質は熱伝導率だけではなく帯磁率や反発率等もあり,これらはインターネット上で比較的安価な測定器を購入することができる.
よって,本研究では,糸魚川の海岸で石探しをする観光客でも入手可能な機器を使用し,熱伝導率や帯磁率,反発硬度でヒスイと類似した岩石を区別できるか検討した.
2 試料および測定方法
本研究で用いた試料は,当館が所有する新潟県糸魚川市の海岸で採取したヒスイ並びに類似岩石である.ヒスイ(120点),流紋岩(100点),キツネ石(100点),ロジン岩(100点),曹長岩(50点),および石英(22点)を測定した.試料は,研磨等はせず,1試料につき1回測定した.キツネ石は緑色部分,ロジン岩は白色部分を分析点とした.熱伝導率の測定には,Presidium社製Duo Tester IIのメーター部分を10段階に区分して利用した.帯磁率の測定には,Geofyzika社製Kappa meter KT-6を使用した.また,反発硬度の測定は,RWBN社製デジタルコンクリートテストハンマー HD-225Cを用いた.いずれの装置も,インターネット上にて10万円以下で入手可能である.
3 結果
熱伝導率は,Duo Tester IIのメーターを10段階で読み取ると,ヒスイが平均3.441で分散0.263,流紋岩が平均2.014で分散0.108,キツネ石が平均2.357で分散0.311,ロジン岩が平均2.049で分散0.249,曹長岩が平均1.708で分散0.325,石英が平均3.872で分散0.295となり,ヒスイと石英の熱伝導率が流紋岩やキツネ石,ロジン岩,曹長岩と比較して高くなった(図1).また,細粒なヒスイが平均3.45で分散0.252,粗粒なヒスイが平均3.15で分散0.09となった.Welchのt検定を実施したところ,ヒスイと流紋岩(t(205) 24.91, p<6.08×10-64),キツネ石(t(204) 14.87, p<2.29×10-34),ロジン岩(t(213) 20.32, p<9.21×10-52),曹長岩(t(84) 18.57, p>1.72×10-31),石英(t(28) -3.54, p<0.0017)だった.
帯磁率は,ヒスイが平均0.0155×10-3 SI,流紋岩が平均0.0139×10-3 SI,キツネ石が平均0.0266×10-3 SI,ロジン岩が平均0.0205×10-3 SI,曹長岩が平均0.0034×10-3 SI,石英が平均0.004×10-3 SIであった(図2).
反発硬度については,HD-225Cを使用したが,測定の岩石が小さく,有効な数値を出すことができなかった.
4 考察
Robertson (1988)によれば,各岩石の熱伝導率は,ヒスイ2.1-6.6 W/(m・K),流紋岩1.0-3.3 W/(m・K),曹長岩2.1 W/(m・K),石英(水晶)6.2-10.7 W/(m・K)とされる.Duo Tester IIでは熱伝導率の絶対値を測定できないが,Robertson (1988)の測定結果と調和的であり,インターネット上にて入手可能な装置でも,半定量的に熱伝導率の計測が可能であった.また,t検定で有意な差があり,Duo Tester IIによる熱伝導率の測定でヒスイと類似した岩石が区別可能であるといえる.
肉眼鑑定でヒスイとした岩石の熱伝導率が低い場合,曹長岩やロジン岩に含まれる熱伝導率が低い鉱物が混入していることを示す可能性がある.この場合,ヒスイ輝石の含有量を熱伝導率から推測できる可能性もある.
帯磁率は,ヒスイを含めいずれも低く有意な差を見いだすことはできなかったが,ネフライトと蛇紋岩,緑色岩,泥岩等の分類に使用できる可能性がある.