講演情報

[R1-12]Ⅱb型とⅠ型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)が混在する特異な天然ダイヤモンド

*北脇 裕士1、江森 健太郎1、久永 美生1、山本 正博1、渡邊 賢司2、神田 久生3 (1. ㈱中央宝石研究所、2. 物質・材料研究機構、3. 元物質・材料研究機構)
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キーワード:

天然ブルーダイヤモンド、ファンシーカラーダイヤモンド、ダイヤモンドタイプ

天然ブルーダイヤモンドはきわめて希少性が高く、すべての宝石の中でも最も価値が高いとされている。一般にブルーダイヤモンドと言えばHope Diamond(45.52ct)が良く知られているが、近年の国際的なオークションにおいてはBlue Moon of Josephine(12.03ct)やOppenheimer Blue(14.62ct)と名付けられたブルーダイヤモンドが1ctあたり4百万ドル以上の価格が付けられ注目を浴びた。これらのブルーダイヤモンドはごく微量(通常1ppm以下)のホウ素を含むⅡb型に分類され、その多くは南アフリカのカリナン鉱山から産出している。
 純粋なダイヤモンドは炭素原子だけから成るが、多くの場合窒素原子を不純物として含有している。伝統的に窒素を含まないものはⅡ型、含むものはⅠ型に分類され、Ⅱ型でもホウ素を含むものはⅡb型とされている。窒素を含むⅠ型はさらに窒素の凝集の程度によりⅠb型、ⅠaA型、ⅠaB型に細分されている。これらのタイプ分類は窒素やホウ素の検出が必要であるが、一般にはFTIRなどの赤外分光法が利用されている。宝石鑑別においてダイヤモンドのタイプ分類はきわめて重要で、天然・合成および色の起源を知る最初のステップとしてFTIRの測定がルーティン化されている。
 本研究では、0.062ctのFansy Light Blueのダイヤモンドを詳しく調べた結果、Ⅱb型とⅠ型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)が混在するきわめて特異な天然ダイヤモンドであったので報告する。
 このダイヤモンドは見かけの色調からⅡb型であることが予測された。FTIR分析の結果、非補償のホウ素による明瞭な2800cm-1のピークが検出されたが、同時に凝集した窒素によるBセンタとプレートレットが検出された。天然ダイヤモンドの98%以上はⅠ型であり、Ⅱ型に属するのは2%以下である。さらにⅡb型は宝石ダイヤモンドの0.002%程度と出現率が低いが、Ⅱb型とⅠ型が混在したものは過去にほとんど例がない。深紫外線を用いたイメージ像では弱く暗い青色に発光する領域と明るい青白色に発光する領域が見られた。その分布形態からHPHT合成やCVD合成ではなく、天然起源であることが確認された。また、514nm,488nm, 633nm, 830nmの励起源を用いて液体窒素温度でフォトルミネッセンス分析を行ったところ、GR1, H3, 3H, 566シリーズなどのピークが検出され、色を改変するための人為的な処理もされていないことが確認できた。さらにPLマッピングを行ったところH3センタの分布は深紫外線イメージ像の明るい青白色に発光する領域に一致した。電子顕微鏡による二次電子像は深紫外線イメージ像と同様に暗い領域と明るく見える領域が見られた。このような二次電子像が明るく見えるのはホウ素による影響があるとの報告がある(Shih et al., 1997)。電子顕微鏡によるカソードルミネッセンス像では二次電子像で暗かった領域にⅡ型の天然ダイヤモンドに特有のモザイク模様が見られた。また、カソードルミネッセンススペクトルでは428nmを中心とするバンドAの発光と235nmのFree Exitonが見られた。いっぽう、二次電子像で明るかった領域は暗かった領域のモザイク模様を上書きするような成長縞が見られ、N3の発光ピークと242nmと238nmにホウ素に由来すると思われるBound Exiton(Collins, 1992)が見られた。以上のことからこの天然ダイヤモンドはⅡa型のダイヤモンドが形成した後に塑性変形を蒙り、その後Ⅱb型とⅠ型(ホウ素と窒素のカラーセンタ)を含有する領域が形成したと考えられる。Ⅱb型とⅠa型が結晶中でどのように混在しているのかは不明のままであるが、従来、ホウ素を含有するのはⅡb型とされてきたが、Ⅰ型にもホウ素を含有することがあるのかもしれない。最近の研究でホウ素を含むⅡb型ダイヤモンドはリソスフェア底部>600kmに由来する超深部起源であることが示されており(Smith et al., 2018)、このダイヤモンドもⅠ型の窒素は凝集の進んだ形態であり、Ⅱb型と共存することからも超深部起源の可能性がある。
写真 本研究で用いた天然ダイヤモンド(0.062ct)