講演情報

[R2-16]風化花崗岩およびカリ長石からのケイ酸質カリ質鉱物肥料合成

*大藤 弘明1、石田 大輝1 (1. 東北大学・院理)
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キーワード:

風化花崗岩、カリ長石、ケイ酸質カリ質肥料、カリオフィライト

【はじめに】
 石炭火力発電の副産物である石炭灰を原料に合成されるケイ酸質カリ質肥料(商品名:「けい酸加里」)は,水稲用の肥料として40年以上に渡り製造,販売,使用されている.「けい酸加里」は水には溶けずクエン酸に溶けるク溶性を示し,稲の成長に不可欠なシリカやカリウム分を長期間,緩やかに水田土壌中へ供給できる特徴がある.「けい酸加里」は,石炭灰に水酸化カリウム(KOH)とマグネシウム,カルシウム分などを添加し,1000℃程度で焼成することで得られ,鉱物学的にはカリオフィライト(KAlSiO4)とオケルマナイト(Ca2MgSi2O7)より構成される.我が国では肥料成分として重要なカリウム原料(主としてKOH)のほぼ全量を輸入に頼っているが,KOHは蒸発岩鉱床として主に北半球の大陸に偏在しているため,ロシアによるウクライナ侵攻後,その供給が不安定になり価格が数倍に高騰し,大きな問題となっている.そこで本研究では,Kを多く含むものの資源として活用されていないカリ長石とそれを多く含む風化花崗岩に着目し,それらをケイ酸質カリ質肥料へ直接転換することを目的とした.

【研究手法】 
 出発原料として,愛媛県松山市北条産の風化花崗岩(マサ土)とスイスVal Giuv産の氷長石(adularia)をメノウ乳鉢で粉末にし,そこにKOH(5M濃度溶液),Al(OH)3,Ca(OH)2,Mg(OH)2試薬を添加したものを用いた.試料を加えてよくかき混ぜた後,140℃で3時間予備乾燥を行い,800~1100℃で10分~12時間,電気炉中で焼成を行った.風化花崗岩を用いた実験では,バルク組成がカリオフィライトとオケルマナイトがモル比で4:1となるようにKOHの添加量および各試薬の量を調整した.カリ長石を用いた実験では,KOHの添加量を0から実験に用いたカリ長石のK含有量と同量まで段階的に変化させ,適宜他の試薬の量も調整した.回収試料の相同定は粉末XRDおよびSEM-EDS用いて行い,一部の試料についてはFIBで薄膜を作成後,TEMによる組織観察と分析を行った.また,pH4.5に調整したクエン酸アンモニウム溶液を用いた肥料成分の溶出試験も行い,回収溶液中の元素濃度をICP発光分光によって調べた.

【結果と考察】
 まず初めに風化花崗岩にKOHを添加した実験を行い,市販の「けい酸加里」に近い物質の合成が可能であるかを調べた.その結果,900℃(2時間)での加熱により,出発物質由来の石英や長石類の大半が反応し,カリオフィライト(KAlSiO4)とリューサイト(KAlSi2O6),少量の珪灰石(CaSiO3)とペリクレース(MgO)の生成が認められた.1000℃(2時間)の加熱では,カリオフィライトの生成量が増え,逆にリューサイトは減少し,1100℃(2時間)では,カリオフィライトが主要相となり,珪灰石やラーナイト(Ca2SiO4)に加えてオケルマナイト(Ca2MgSi2O7)の生成も認められた.また加熱時間を変化させたところ,1100℃で10分の加熱で市販の「けい酸加里」によく似たカリオフィライトとオケルマナイトを主体とする試料が得られた.回収試料の断面観察では,加熱温度および加熱時間の増加に伴い,花崗岩を構成する石英や長石粒子の周縁からまずKが,続いてAlが拡散してゆき,アモルファス相を経てカリオフィライトへと変化する様子が観察された. Alの拡散が反応を律速しており,これはフレームワークを構成するSiO4四面体の再構築にエネルギーを要するためと解釈される.
 次に,カリ長石を出発物質としてKOHの添加量を徐々に減らしてゆきながら生成相の変化を追跡した.1100℃(2時間)の加熱でKOHを全く添加しない場合,リューサイトとオケルマナイトが主な生成相であったが,系全体のカリウムの約20%をKOHとして添加した場合,カリオフィライトの生成が認められ,添加量を30%から50%まで増やしていくとリューサイトの生成が大幅に減少し,カリオフィライトの生成が増加した.さらに,加熱温度を1050℃(2時間)に下げた場合,KOHの添加量が全カリウムの30%程度でも,カリオフィライトとオケルマナイトを主体とした市販の「けい酸加里」同等の試料が得られた.また,これらの試料についてクエン酸アンモニウム溶液を用いた肥料成分(Si,K)の溶出試験を行ったところ,「けい酸加里」に比較すると6~7割相当ではあるが高い溶出量を示すことを確認した.
 カリ長石を出発原料に用いることで,KOHの添加量を約70%削減しても市販のケイ酸質カリ質肥料と同等の物質を得ることが分かり,これまでカリウム資源として未利用であったカリ長石や風化花崗岩の有効活用への道を見出した.