講演情報

[R3-P-04]氷天体内部におけるH2O-NH3系の相関係と圧縮挙動

*竹内 萌々子1、境 毅1、門林 宏和2 (1. 愛媛大・GRC、2. JASRI)
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キーワード:

アンモニアダイハイドレート、無秩序分子合金、氷Ⅶ相、水素結合対称化

水とアンモニアは巨大氷惑星や衛星などの氷天体を構成する主成分であると考えられており,内部ではアンモニア一水和物(Ammonia monohydrate(AMH), NH3:H2O=1:1), アンモニア半水和物(Ammonia hemihydrate(AHH),NH3:H2O =2:1), アンモニア二水和物(Ammonia dihydrate(ADH),NH3:H2O =1:2)の3つが様々な組成およびP-T条件下で安定化する(Liu et al.,2017).さらに巨大氷惑星は磁場中心が大きくずれている特徴を持ち,H2O-NH3を含む混合物が電気伝導度の高い超イオン氷として存在し磁場を形成している可能性が示唆されている(Bethkenhagen et al.,2015).このことからH2O-NH3系における相関係を知ることは,氷天体の内部を理解するのに重要である.H2O-NH3を含む混合物の高圧特性は,超イオン相,対称相などの多形の存在が報告されているが10 GPaを超える相関係はまだ明らかになっていない点が多い.アンモニア水和物の中でH2O-NH3の太陽系元素存在比に近いとされる,ADHの室温での圧縮実験ではAHHと氷Ⅶ相に分離することが分かっている(Mondal et al.,2023).一方で,低温下での圧縮では無秩序分子合金(Disordered molecular alloy( DMA))と呼ばれる水分子とアンモニア分子が相互置換した結晶相の存在が報告されている.このことから室温下の圧縮で分離した氷Ⅶ相においても部分的なアンモニア分子の“固溶”が起こらないのかという疑問が生じる.
 そこで本研究では,室温下におけるH2O-NH3系の相関係とH2O氷の圧縮挙動を明らかにすることを目標として,ADHの組成比に比較的近いアンモニア水(25 Wt%および28 Wt%)を用いて,約80 GPaまでダイヤモンドアンビルセル(DAC)による圧縮実験を行った.また,非静水圧性の緩和のために約500 Kにて適宜アニーリングを行った.
 実験結果より,加圧過程で氷Ⅶ相が分離生成されたが,その後の約80 GPaまでの加圧過程にて,純水において約40 GPa~60 GPaにて観察される氷X相への相転移 (氷Ⅶ相中の水素結合を形成する酸素間の中心に,水素が位置するという水素結合の対称化(Kamb and Davis.,1964))は確認されなかった.アニーリング後のXRDプロファイルより,約13 GPaでの氷Ⅶ相の111ピークはシャープであることが確認された.その一方で,110ピークと200ピークでは室温での加圧および加圧途中でアニーリングを行った実験の双方で約10 GPaからスプリットが確認された.アニーリングによって非静水圧性の効果による歪は取り除けていると仮定すれば,110ピークと200ピークのスプリットは,cubicである氷Ⅶ相がtetragonal的に歪んでいることに起因していると考えられる.
 また,金の一軸応力解析を行い歪によるピーク分離への影響についてガンマプロット法を用いて確認した.アニーリングを行う前の応力は0.1~0.4 GPa,アニーリング後は0.06~0.25 GPaとアニーリング後の方が値のばらつきが少なく,一軸応力は小さいことが確認できた.以上のことから圧縮によって分離した氷Ⅶ相は純粋な氷ではなく,アンモニア成分が氷格子内に存在することで,ピークのスプリットや水素結合対称化の阻害に影響しているのではないかと考えた.Bove et al. (2015) では,塩分 (LiCl)を含む氷Ⅶ相は,氷格子内のイオンの存在により,水分子の配向が制限され,水素結合の対称化を妨げ氷X相への相転移圧力が上昇すると示されている.従ってアンモニア成分でも同様の効果があることが期待され,氷天体内部では純粋なH2O氷ではなくアンモニア成分との共存下での物性がより重要となる.