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[R3-P-06]Wadsleyite中の最大含水量の温度および共存相依存性

*嘉屋 華恵1、井上 徹1、濵田 雄士2、川添 貴章1、高市 合流1 (1. 広島大・院先進理工、2. 広島大・理)
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キーワード:

ワズレアイト、最大含水量、含水メルト、含水相、マントル遷移層

1.はじめに
 Wadsleyite (Wd) は,マントル遷移層 (地球深部約410–660 km相当) の主要構成鉱物である.分類上は無水鉱物 (Nominally anhydrous mineral: NAM) であるが,その結晶構造中に最大3 wt%程度の水を含みうることが明らかにされている (e.g. Inoue et al., 1995; Kudoh et al., 1996).Wd中の最大含水量の温度依存性については,含水メルト (L) と共存するような高温領域下においてはおおよそ明らかにされつつある一方 (e.g. Ohtani et al., 2001; Demouchy et al., 2005),低温領域下での実験結果については先行研究間で共存相等の不一致が見られ, 含水量に影響を及ぼしている可能性がある (e.g. Demouchy et al., 2005; Ishii et al., 2025).マントルの平均温度は1500℃程度 (Ito and Katsura, 1989) である一方,沈み込みスラブの中心温度は500–900℃ (Kirby et al., 1996) 程度である。したがって,地球深部ダイナミクスを理解するうえでは,低温領域下でのWd中の最大含水量についても重要である.このような理由により,本研究では特に低温領域におけるWd中の最大含水量の振る舞いに着目して,実験的検討を行った.
2.手法
 実験はMg2SiO4 (Fe-free) および(Mg0.9,Fe0.1)2SiO4 (Fe-bearing) 組成にH2Oを5 wt%加えた2種類で行った.出発試料としては,Mg(OH)2,MgO,SiO2,Fe2SiO4の粉末混合試料を準備した.H2O成分はMg(OH)2のかたちで導入し,試料はAuPdカプセルに封入した.
 高温高圧実験は,広島大学設置の川井型 (MA8型) マルチアンビル型高圧発生装置MAPLE600を用いて行った.実験圧力および温度は15 GPa,1000–1600℃であり,1–2時間加熱保持した.温度は熱電対により,実験セルの一番高温側の温度 (実験セルの中心温度) を測定した.加熱終了後は急冷し,12時間かけて常圧まで減圧したのち,試料を回収した.
 回収した試料は鏡面研磨後,SEMによる組織観察,EPMAによる化学組成測定,微小部XRDによる相同定を行った.含水量はEPMA total欠損値から推定した.EPMA測定点には試料の平滑面でかつプローブ径より大きい粒子を選定した.そのため欠損への寄与にはH2Oのほかを考え難く,定量分析時のZAF補正 (マトリックス補正) はH2O成分の存在を考慮して行った.さらにWdとenstatite (En) が共存した際には,Enをほぼ無水 (0 wt% H2O) と仮定して規格化した解析を行った.加えて,Fe-free WdについてはInoue et al. (1995) で示唆される含水置換 (Mg2+ ↔ 2H+) を仮定し,Mg/Si比からも含水量を見積もった.
3.結果および考察
 図1にFe-free Wd中の含水量の温度依存性を示す.本研究のFe-free Wdは,1100–1600℃でLと共存するかたちで存在した.1100,1200℃ではカプセル高温側 (測温側) にWdとLが共存し,温度勾配による低温側 (100℃程度低温と推定) にはWdと含水相phase E (E) が共存した.1000℃ではWdは見られず,Eが見られた.本研究で得たFe-free Wd中の含水量は,Lとの共存より,各温度における最大値を示すと考えられる.含水量は,無水条件下での融点である約2500℃ (Ohtani and Kumazawa, 1981) から温度の低下にともない,約1300℃まで著しく増加することが示された.今回EPMA total欠損値から推定した含水量は,含水置換 (Inoue et al., 1995) から計算される含水量,およびDemouchy et al. (2005) が報告した含水量 (SIMS測定) と顕著な差は見られなかった.
 Ishii and Ohtani (2021),Ishii et al. (2025) では,粉末混合試料と単結晶を用いた水分配実験を行い,低温下で含水鉱物と共存する単結晶Wdはカイネティクス的にほぼ無水のまま存在すると報告している.本研究でも同様の手法で実験を行い,粉末試料で合成されたWdと単結晶Wdの両方の含水量を測定し,これまでの結果と比較・検討を行っている.この結果については,発表時に紹介する.