講演情報

[R3-P-09]沈み込むスラブにおける高圧含水相の安定性と固溶関係

*美才治 誠1、井上 徹1、高市 合流1、川添 貴章1、新名 亨2、入舩 徹男2 (1. 広島大・院先進理工、2. 愛媛大・GRC)
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キーワード:

沈み込むスラブ、高圧含水相、phase Egg、phase H、マントル―地殻物質反応

1. はじめに
 地球内部への水の運搬は、スラブの沈み込みによって生じている。phase Egg (AlSiO4H) はマントル遷移層の圧力下で生成する堆積岩(大陸地殻物質)由来の高圧含水相であり、その温度安定性は1700℃に及ぶ(One, 1988; Sano et al., 2004; Fukuyama et al., 2017)。このphase Eggはダイヤモンド包有物中に発見され(Wirth et al., 2007)、実際に大陸地殻物質とH2O成分がマントル遷移層まで沈み込んでいる証拠だと考えられる。最近、このphase Egg中に下部マントル領域で安定な高圧含水マグネシウムケイ酸塩相phase H(MgSiO4H2)が固溶することが24GPa, 1400℃の実験から示された(Al0.65Mg0.35SiO4H1.35 phase Egg: Bindi et al., 2023)。このことはマントル遷移層から下部マントル領域でのH2O成分を介在した地殻―マントル物質反応の重要性を示している。しかしながら、この固溶関係を系統的に明らかにした研究は未だなされていない。本研究では、マントル遷移層~下部マントル最上部条件下で、このphase Egg 中へのphase H成分の固溶関係を明らかにすることを目的に実験的研究を行った。 
2. 実験方法
 phase Egg (AlSiO4H) と phase H (MgSiO4H2)の中間組成を出発組成として、広島大学理学部設置のマルチアンビル型高圧発生装置MAPLE600、および愛媛大学GRC設置のORANGE3000を用いて20-27GPa, 温度1200~1800℃で実験を行った。保持時間は1時間で統一した。H2O成分の流出を防ぐため,試料はAuPdカプセルおよびPtカプセルに封入した。回収した試料は鏡面研磨を行った後,走査型電子顕微を用いた組織観察、電子プローブマイクロアナライザーでの化学組成分析を行った。また、微小部X線回折装置を用いて相の同定を行った。含水量はEPMA total欠損値から推定した。尚,今回の測定では粒径がプローブ径より十分大きく,かつ平滑な面を測定したため,total欠損はH2Oの寄与以外は考えにくい。したがってEPMA定量分析の際のZAF補正(マトリックス補正)には,水素の存在も考慮した補正を行った。
3. 結果及び考察 
 図に示すように、20 GPa, 1400~1600 ℃ では、phase Egg中へのphase H成分の固溶量は2 mol%程度に留まった。一方、温度上昇に伴い、固溶量は多少増加する様子が確認された(1800℃では~4 mol%)。本結果からマントル遷移層条件下では、この固溶関係はかなり限定されることが明らかとなった。一方、Bindi et al. (2023)は、下部マントル最上部条件下(24GPa, 1400℃)で~35 mol%もの固溶が起こることを示しており、この固溶のためにphase Eggの安定領域が高圧側に拡大した可能性が考えられる。これらの結果を総合的に解釈すると、マントル遷移層下部から下部マントル最上部の範囲内でphase Egg とphase H間の固溶関係が大きく変化していくことが予想される。現在、下部マントル最上部条件下での実験を進めており、その結果については発表時に紹介する。