講演情報
[R4-P-02]CaCO3の直接的な結晶形成過程にMg2+の水和状態が与える影響の検討
*工藤 琉星1、川野 潤1、岩根 直1、鍵 裕之2、篠崎 彩子1、永井 隆哉1 (1. 北大・院理、2. 東大・院理)
キーワード:
炭酸カルシウム、水和、多形
1. はじめに
CaCO3は生体鉱物や堆積物の形で環境中に広く存在する鉱物であり、主な多形として常温常圧で安定なcalciteと高圧で安定なaragoniteが存在する。これらは水溶液から直接核形成する以外にも、非晶質相(amorphous calcium carbonate, ACC)や水和物などの準安定相を前駆物質として生成する。この様な複雑な形成過程にはMg2+が重要な影響を及ぼすことが報告されている。Mg2+はcalciteに一定量取り込まれる一方で、aragoniteに殆ど固溶されないのにも関わらず、常温常圧下の溶液中でaragoniteの形成を促す。これらのMg2+の特徴的な挙動については、Mg2+の水和の影響が注目されている。例えばMg2+の結合力の強い水和殻がcalciteへの取り込みを抑制していることが示唆されているが(Xu et al., 2013)、その影響は十分に評価されていない。CaCO3形成過程におけるMg2+の水和状態の影響を調べるために、岩根ら(2024) はホルムアミド(NH2CHO)と水の混合溶媒のラマン分光分析を行い、Mg2+は混合溶媒中で水和しにくくなることを明らかにした。この混合溶媒を用いたCaCO3合成実験の結果、aragoniteの形成に寄与するのは水和したMg2+であることが示唆された。しかし、この実験においてはaragoniteがACCを経由して形成された可能性が高いことから、aragoniteの直接の形成に対するMg2+の水和状態の影響を調べる必要がある。そこで、本研究ではCaCO3が水溶液から直接核形成するような過飽和度条件において水-ホルムアミド混合溶媒を用いた合成実験を行い、calciteへのMg2+固溶量の変化と、ともに形成したaragoniteの量比を解析することで、Mg2+の水和状態がCaCO3形成過程に与える影響を検討した。
2. 実験手法
CaCO3の合成は混合溶媒(ホルムアミド体積割合0 ~ 50%)を用いて調製したCaCl2 - MgCl2溶液とNa2CO3溶液をそれぞれ25 mLずつ反応容器に入れて密閉し、恒温槽内(25 ℃)で撹拌することで行った。反応溶液の濃度は、混合後に[1] [Ca2+] = 1, [Mg2+] = 1, [CO32-] = 4 mM(Ca / Mg = 1)および、[2] [Ca2+] = 2.1, [Mg2+] = 0.9, [CO32-] = 5 mM (Ca / Mg = 2.3)となるように設定した。沈殿生成直後、2時間撹拌後の試料を回収し、粉末X線回折装置を用いて相同定を行った。calciteの格子面間隔からMg2+固溶量を定量した。
3. 結果と考察
ホルムアミド0 %におけるCa2+/Mg2+ = 1の実験では、沈殿生成直後からaragoniteのピークが検出され、ACCを経由せずにaragoniteが形成されたことが確認された。2時間攪拌後もaragoniteの割合は100 wt%であった。この結果はホルムアミド割合を変えても変化しなかった。一方、Ca2+/Mg2+ = 2.3の実験においては、ホルムアミド0 %の場合、沈殿生成直後に回収した試料がcalciteであったことから、ACCを経由せずにcalciteが初晶として形成したと考えられる。2時間撹拌後、calciteに加えて数十wt%程度のaragoniteの形成が確認された。この時の溶液濃度を収量から計算するとCa2+ / Mg2+ が 1以下となる。Ca2+ / Mg2+ = 1の実験では生成相がほぼaragoniteであったことから、calciteが形成した後、それに伴って母液にMg2+ が濃集し、aragoniteの形成が開始したと考えられる。ホルムアミド0~40 %においては、ホルムアミド割合が増加しても2時間後の生成物に対するaragoniteの形成割合に傾向は確認されず、calciteのMg2+固溶量は数mol%に留まった。この実験においてはcalciteとaragoniteの形成割合は時間とともに変化することから、水和の影響の正確な見積もりにはその影響を考慮する必要がある。ただし、ホルムアミド50 %では0~40 %の場合に対して2時間撹拌後のaragoniteの割合やcalciteの固溶量に傾向の違いがみられた。これは、形成直後にACCが形成し、その後の結晶相の形成に大きな影響を与えたことによる可能性があると考えられる。
[1] Xu et al., PNAS, 110, 2013, 17750–17755
[2] 岩根ほか, 日本鉱物科学会, 2024
CaCO3は生体鉱物や堆積物の形で環境中に広く存在する鉱物であり、主な多形として常温常圧で安定なcalciteと高圧で安定なaragoniteが存在する。これらは水溶液から直接核形成する以外にも、非晶質相(amorphous calcium carbonate, ACC)や水和物などの準安定相を前駆物質として生成する。この様な複雑な形成過程にはMg2+が重要な影響を及ぼすことが報告されている。Mg2+はcalciteに一定量取り込まれる一方で、aragoniteに殆ど固溶されないのにも関わらず、常温常圧下の溶液中でaragoniteの形成を促す。これらのMg2+の特徴的な挙動については、Mg2+の水和の影響が注目されている。例えばMg2+の結合力の強い水和殻がcalciteへの取り込みを抑制していることが示唆されているが(Xu et al., 2013)、その影響は十分に評価されていない。CaCO3形成過程におけるMg2+の水和状態の影響を調べるために、岩根ら(2024) はホルムアミド(NH2CHO)と水の混合溶媒のラマン分光分析を行い、Mg2+は混合溶媒中で水和しにくくなることを明らかにした。この混合溶媒を用いたCaCO3合成実験の結果、aragoniteの形成に寄与するのは水和したMg2+であることが示唆された。しかし、この実験においてはaragoniteがACCを経由して形成された可能性が高いことから、aragoniteの直接の形成に対するMg2+の水和状態の影響を調べる必要がある。そこで、本研究ではCaCO3が水溶液から直接核形成するような過飽和度条件において水-ホルムアミド混合溶媒を用いた合成実験を行い、calciteへのMg2+固溶量の変化と、ともに形成したaragoniteの量比を解析することで、Mg2+の水和状態がCaCO3形成過程に与える影響を検討した。
2. 実験手法
CaCO3の合成は混合溶媒(ホルムアミド体積割合0 ~ 50%)を用いて調製したCaCl2 - MgCl2溶液とNa2CO3溶液をそれぞれ25 mLずつ反応容器に入れて密閉し、恒温槽内(25 ℃)で撹拌することで行った。反応溶液の濃度は、混合後に[1] [Ca2+] = 1, [Mg2+] = 1, [CO32-] = 4 mM(Ca / Mg = 1)および、[2] [Ca2+] = 2.1, [Mg2+] = 0.9, [CO32-] = 5 mM (Ca / Mg = 2.3)となるように設定した。沈殿生成直後、2時間撹拌後の試料を回収し、粉末X線回折装置を用いて相同定を行った。calciteの格子面間隔からMg2+固溶量を定量した。
3. 結果と考察
ホルムアミド0 %におけるCa2+/Mg2+ = 1の実験では、沈殿生成直後からaragoniteのピークが検出され、ACCを経由せずにaragoniteが形成されたことが確認された。2時間攪拌後もaragoniteの割合は100 wt%であった。この結果はホルムアミド割合を変えても変化しなかった。一方、Ca2+/Mg2+ = 2.3の実験においては、ホルムアミド0 %の場合、沈殿生成直後に回収した試料がcalciteであったことから、ACCを経由せずにcalciteが初晶として形成したと考えられる。2時間撹拌後、calciteに加えて数十wt%程度のaragoniteの形成が確認された。この時の溶液濃度を収量から計算するとCa2+ / Mg2+ が 1以下となる。Ca2+ / Mg2+ = 1の実験では生成相がほぼaragoniteであったことから、calciteが形成した後、それに伴って母液にMg2+ が濃集し、aragoniteの形成が開始したと考えられる。ホルムアミド0~40 %においては、ホルムアミド割合が増加しても2時間後の生成物に対するaragoniteの形成割合に傾向は確認されず、calciteのMg2+固溶量は数mol%に留まった。この実験においてはcalciteとaragoniteの形成割合は時間とともに変化することから、水和の影響の正確な見積もりにはその影響を考慮する必要がある。ただし、ホルムアミド50 %では0~40 %の場合に対して2時間撹拌後のaragoniteの割合やcalciteの固溶量に傾向の違いがみられた。これは、形成直後にACCが形成し、その後の結晶相の形成に大きな影響を与えたことによる可能性があると考えられる。
[1] Xu et al., PNAS, 110, 2013, 17750–17755
[2] 岩根ほか, 日本鉱物科学会, 2024