講演情報
[R6-01]隠岐帯変花崗岩の火成活動
*亀井 淳志1、平井 智望1、藤原 まい1、谷 健一郎2、中野 伸彦3、遠藤 俊祐1、髙橋 瑞季1 (1. 島根大学、2. 国立科学博物館、3. 九州大学)
キーワード:
変花崗岩、隠岐帯、西南日本
隠岐帯の地質学的位置づけは,中国大陸・朝鮮半島・日本列島にまたがる北東アジアの基盤構造を理解する上で重要である.近年,隠岐帯の隠岐島後に産する変花崗岩が火山弧型の化学組成を示し,約1.97,1.88,1.81 Gaの火成活動があったとする研究(Cho et al., 2021)や,砂泥質片麻岩に約1.85 Gaの中圧型の変成作用が認められることから(Kawabata et al., 2021),Yeongnam MassifあるいはGyeonggi Massifとの対比が議論されている.本研究では,隠岐帯に分布する変花崗岩類に対して広域的な地質調査を実施し,岩石記載,ジルコンU–Pb年代測定,全岩化学分析,NdおよびHf同位体分析を行った.変花崗岩は主に斜長石・石英・アルカリ長石を主体とする.砂泥質片麻岩と混在してミグマタイトを形成することが一般的であるが,数十メートル規模に及ぶ変花崗岩の岩塊も見いだされた.鉱物モード組成はトーナル岩から花崗岩に至る広い範囲を示し,斜長石に累帯構造は認められない.全岩化学組成では,ハーカー図で大きなばらつきがあり,典型的な火成岩の分化トレンドを形成しない. しかし,コンドライトで規格化したREEパターン図では,Eu異常に基づき,重希土類に富むEu負異常型,重希土類に貧しいEu正異常型,およびEu異常のない中間型の3つに区分できる.中間型を初生メルトと仮定し,長石類の平衡結晶作用を想定したモデル計算では,Eu負異常型とEu正異常型のパターンが再現され,これらが分化マグマおよび集積岩に相当することが示唆された.さらに,Rb–(Y+Nb)判別図では,Eu異常のない中間型が火山弧型に,Eu負異常型がプレート内型に,正異常型が衝突期型へと広がる傾向が見いだされ,初生マグマが火山弧型であったこと,そして,その後の集積作用によって多様な組成が生じたことが示された.ジルコンU–Pb年代では,変花崗岩の岩塊より約225 Maのコンコーディア年代が得られ,一方で,上記の中間型の変花崗岩より,225 Maを下部交点とし,約1.94 Gaを上部交点とするディスコーディアが得られた.これらより,変花崗岩の形成時期は約1.94 Gaと約225 Maの二期と解釈された.同位体分析では,Nd同位体によりT_DM2年代として約3.1〜2.3 Ga,ジルコンHf同位体から約3.22〜2.75 Gaの値が得られ,εHf(t)値は+1.72から−9.53を示した.これらの結果は,変花崗岩の起源が古い大陸地殻物質に由来することを示す.他方,砂泥質片麻岩の全岩化学組成では,LIL元素に富み,Nb・Tiに乏しい火山弧型の特徴がみられ,堆積環境の判別図では火山弧~受動的大陸縁の組成を示した.これにより,砂泥質片麻岩の原岩は火山弧起源の物質から構成され,大陸縁に堆積した可能性が高い.本研究の成果をまとめると次の様になる.(1)変花崗岩の火成活動は約1.94 Gaおよび約225 Maの二期である.(2)変花崗岩および砂泥質片麻岩の原岩はともに火山弧起源である.(3)変花崗岩は長石類を主体とした平衡結晶作用により多様な組成を示す.(4)Nd・Hf同位体データは変花崗岩の起源が古い大陸地殻物質であることを示唆する.隠岐帯の対比先については,本研究で得られた古原生代の火成活動や同位体特性から,Yeongnam MassifもしくはGyeonggi Massifへの決定的な議論には至らなかった.ただし,消去法的ではあるが,Gyeonggi Massifには衝突帯型花崗岩やアルカリ花崗岩の多産が知られているものの,本研究では認められず,むしろ変花崗岩および砂泥質片麻岩の化学組成は火山弧的性質が強い.このことから,現状では,Yeongnam Massifへの対比の可能性が高いと言える.