講演情報
[R6-03]白亜紀フレアアップにおける花崗岩質マグマ生成プロセス〜愛媛県芸予諸島大島および梶島を例として〜
*下岡 和也1、長田 充弘2、小北 康弘3,4、高橋 俊郎5、谷 健一郎6、壷井 基裕1、齊藤 哲7 (1. 関西学院大学、2. 日本大学、3. 原子力機構、4. 熊本大学、5. 新潟大学、6. 国立科博、7. 愛媛大学)
キーワード:
白亜紀フレアアップ、花崗岩マグマプロセス、部分溶融、マグマ混合、西南日本花崗岩類
火山弧におけるマグマの異常発生期である“フレアアップ期”の大規模な珪長質火成活動は,大陸地殻の成長・成熟における重要な過程と考えられている。このマグマの異常発生はマントルの熱的影響を受け駆動されると考えられている(例えば,Attia et al., 2020, Geology)。西南日本内帯には白亜紀フレアアップに形成された花崗岩類が広く分布している。苦鉄質下部地殻の部分溶融により生成されたとされるこれらの花崗岩類は(例えば, Nakajima 2004, Trans. R. Soc. Edinb. Earth Sci.),これまでさまざまな手法で研究がなされているが,その形成メカニズムはいまだ明らかにされていない。本研究では,西南日本内帯に位置する愛媛県芸予諸島の大島および梶島に分布する白亜紀花崗岩類と苦鉄質深成岩類(閃緑岩・斑れい岩)を対象に,記載岩石学的特徴,鉱物-全岩化学組成,およびジルコンU-PbおよびHf同位体データを用いて,花崗岩質マグマの生成・分化プロセスを議論した。
大島地域に分布する“大島石”は,記載岩石学的に大島Ⅰ型とⅡ型に区分され,Ⅱ型はⅠ型を包有するように分布する。Ⅰ型は優白質塊状で部分的にペグマタイトを伴う産状を示す一方で,Ⅱ型には閃緑岩質マグマとの混合を示唆するMMEやクロットが特徴的に含まれる。鉱物化学組成では,黒雲母のMg#や元素の含有量に有意な差が認められ,燐灰石飽和温度計(Harrison and Watson, 1984, Geochim. Cosmochim. Acta)を用いた温度推定では,Ⅱ型がより高温条件で形成されたことが示唆された。これらの特徴から,大島Ⅱ型は閃緑岩質マグマとのマグマ混合および加熱によって形成され,同時にその過程で抽出されたメルトが大島Ⅰ型を形成したと解釈できる。
一方,梶島では斑れい岩と花崗岩が共に分布し,花崗岩が斑れい岩中に岩脈やネットワーク状に産出する。花崗岩中には単結晶のアルカリ長石中に自形性の高い石英,融食縁を示す斜長石,黒雲母がポイキリティックに包有される部分溶融組織(下岡ほか, 2024, GKK)がみられる。また斑れい岩においてもこの部分溶融組織と類似する,フィルム状の角閃石中に融食された斜長石およびかんらん石がポイキリティックに包有される産状が観察される。主要元素分析では,斑れい岩類が低K2Oの組成を示すのに対し,花崗岩類はSiO2含有量が72.0〜75.7 wt%の範囲でK2O含有量が0.9〜5.5 wt %と幅広い組成範囲を示す。ジルコンU-Pb年代およびHf同位体分析から,両岩体が約91〜92 Maにほぼ同時期に形成され,εHf(t)値が一致することから,両者に成因的な関係性があると示唆される。これらの深成岩類に対して,部分溶融モデリングを行ったところ,斑れい岩類から斜長石・輝石・磁鉄鉱を溶け残り相とする部分溶融により低K2Oのトーナル岩質マグマの生成,さらにこのトーナル岩からの斜長石・石英・黒雲母・磁鉄鉱を溶け残り相とする再溶融による高K2O花崗岩質マグマの形成が再現された。この2段階のマグマ生成過程は,マントルからの熱供給を受けた苦鉄質下部地殻の溶融を通して,高K2O花崗岩質マグマへと進化する地殻内プロセスを示している。
このように,大島および梶島にみられる西南日本白亜紀の花崗岩は,苦鉄質下部地殻構成岩を起源物質とした多段階の溶融作用および苦鉄質マグマとの混合により形成したものと考えられる。本研究で示したように、フレアアップ期の火山弧では、マントルから地殻にいたる大規模かつ多様なマグマプロセスを経て、大陸地殻の成長・成熟が進行するものと考えられる。
大島地域に分布する“大島石”は,記載岩石学的に大島Ⅰ型とⅡ型に区分され,Ⅱ型はⅠ型を包有するように分布する。Ⅰ型は優白質塊状で部分的にペグマタイトを伴う産状を示す一方で,Ⅱ型には閃緑岩質マグマとの混合を示唆するMMEやクロットが特徴的に含まれる。鉱物化学組成では,黒雲母のMg#や元素の含有量に有意な差が認められ,燐灰石飽和温度計(Harrison and Watson, 1984, Geochim. Cosmochim. Acta)を用いた温度推定では,Ⅱ型がより高温条件で形成されたことが示唆された。これらの特徴から,大島Ⅱ型は閃緑岩質マグマとのマグマ混合および加熱によって形成され,同時にその過程で抽出されたメルトが大島Ⅰ型を形成したと解釈できる。
一方,梶島では斑れい岩と花崗岩が共に分布し,花崗岩が斑れい岩中に岩脈やネットワーク状に産出する。花崗岩中には単結晶のアルカリ長石中に自形性の高い石英,融食縁を示す斜長石,黒雲母がポイキリティックに包有される部分溶融組織(下岡ほか, 2024, GKK)がみられる。また斑れい岩においてもこの部分溶融組織と類似する,フィルム状の角閃石中に融食された斜長石およびかんらん石がポイキリティックに包有される産状が観察される。主要元素分析では,斑れい岩類が低K2Oの組成を示すのに対し,花崗岩類はSiO2含有量が72.0〜75.7 wt%の範囲でK2O含有量が0.9〜5.5 wt %と幅広い組成範囲を示す。ジルコンU-Pb年代およびHf同位体分析から,両岩体が約91〜92 Maにほぼ同時期に形成され,εHf(t)値が一致することから,両者に成因的な関係性があると示唆される。これらの深成岩類に対して,部分溶融モデリングを行ったところ,斑れい岩類から斜長石・輝石・磁鉄鉱を溶け残り相とする部分溶融により低K2Oのトーナル岩質マグマの生成,さらにこのトーナル岩からの斜長石・石英・黒雲母・磁鉄鉱を溶け残り相とする再溶融による高K2O花崗岩質マグマの形成が再現された。この2段階のマグマ生成過程は,マントルからの熱供給を受けた苦鉄質下部地殻の溶融を通して,高K2O花崗岩質マグマへと進化する地殻内プロセスを示している。
このように,大島および梶島にみられる西南日本白亜紀の花崗岩は,苦鉄質下部地殻構成岩を起源物質とした多段階の溶融作用および苦鉄質マグマとの混合により形成したものと考えられる。本研究で示したように、フレアアップ期の火山弧では、マントルから地殻にいたる大規模かつ多様なマグマプロセスを経て、大陸地殻の成長・成熟が進行するものと考えられる。