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[R6-08]鹿児島県に産する中新世代の花崗岩類の起源とテクトニクスについて

*礼満 ハフィーズ1、真梨萌 中林3、大輔 山下2 (1. 鹿児島大学、2. 薩摩川内市甑ミュージアム、3. 三菱重工)
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キーワード:

花崗岩、甑島、ジルコン

鹿児島県を中心とする西南日本地域では、南北に延びる琉球弧に沿ってフィリピン海プレートの沈み込みおよび地殻のリフティングに伴うマグマ活動が進行してきた。本地域の地質は、新第三紀における地殻成長およびその後の火山活動を解明する上で重要である。鹿児島県内には、新第三紀中新世(約1400万年前~900万年前)に形成された4つの花崗岩質プルトン、すなわち (1)大隅花崗岩、(2)高隈山花崗岩、(3)紫尾山花崗岩、(4)甑島花崗岩が分布している(Shinjoe et al., 2021および参考文献)。前者3つは外帯(海側)に位置し、甑島花崗岩類は北側の内帯(臼杵・八代構造線以北、陸側)に分布する。外帯の花崗岩類は、鹿児島県の基盤岩である白亜紀四万十層群堆積岩に貫入し、上部地殻(深さ約10 km以浅)で形成された後に隆起したと考えられる。一方、内帯に位置する甑島花崗岩類は、比較的苦鉄質であり、年代的にもやや新しく、白亜紀後期の姫浦層群(化石を多く含む海成・非海成の堆積岩類)に貫入している(Komatsu et al., 2014)。また、県内には加久藤カルデラ(北部・霧島地域)、姶良カルデラ(県中央部)、阿多カルデラ(南部、北・南の二つのサブカルデラを持つ)、および鬼界カルデラの4つの大規模カルデラが存在し、それらから噴出した火山噴出物は広範囲に分布しており、過去半世紀以上にわたって地質学的研究が活発に行われてきた。しかしながら、鹿児島県に隆起している新第三紀中新世の花崗岩類に関しては、岩石学的起源やそれらを形成したマグマ生成過程、テクトニックな背景構造に関する研究は依然として少ない。Rehman et al.(2023)は、日本鉱物科学会2023年年会(大阪開催)において、甑島列島の花崗岩類に関する岩石学的特徴と花崗岩試料から分離したzircon粒の微量元素組成分析、およびU–Pb年代測定結果を発表し、甑島花崗岩類のテクトニック・セッティングについて議論を行った。著者らは、甑島列島の花崗岩類が九州―パラオ海嶺の部分融解に起因する比較的苦鉄質なマグマに由来する可能性を示唆したが、当時は十分な科学的データが揃っておらず、その解釈には不確実性が残っていた。本研究では、甑島列島の花崗岩類から分離したzircon粒を対象にU–Pb年代測定およびLu–Hf同位体分析を行い、花崗岩類を形成したマグマ源の特性をより明確にすることを目的とした。分析の結果、zirconの176Hf/177Hf同位体比は0.28294〜0.28311(平均:0.28300, n=54)であり、全ての試料において正のεHf(t)値(+6.18〜+12.26、平均:+8.58, n=54)を示した。これらのデータは、マグマ源が枯渇マントルに由来する比較的若い地殻物質であることを示唆する。また、二段階年代モデル(Two stage mantle model age)に基づく物質のマントル・地殻分離年代は256〜452 Maの比較的狭い範囲を示し、甑島花崗岩類が比較的若く苦鉄質に富む地殻起源であることを裏付ける。さらに、本研究で得られたzirconの微量元素組成およびTi濃度に基づく結晶化温度は609〜895 °Cの範囲を示し、花崗岩質メルトとの整合性が認められた。これらの結果から、甑島花崗岩類は沈み込んだ中央海嶺(及び海山?)の部分融解により形成された苦鉄質成分を含むフェルシックメルトの結晶化によって形成された可能性が高いと考えられる。
References
Komatsu, T., Miyake, Y., Makoto, M., Yabumoto, Y., Hirayama, R., & Tsuihiji, T. (2014) Journal of the Geological Society of Japan, 120, 19–39.
Rehman, H.U., Nakabayashi, M., Ota, Y., Das, K., Chung, S. L., Lee, H. Y., Yamashita, D., Yamamoto, H. (2023). The 2023 JAMS Annual Meeting, Osaka, Japan, abstract# R6-O5.
Shinjoe, H., Orihashi, Y., Niki, S., Sato, A., Sasaki, M., Sumii, T., & Hirata, T. (2021) The Island Arc, 30, e12383.

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