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[R6-11]ジルコンの地球化学的特徴に基づく雲仙火山マグマ供給系の時間変化の検討

*岩橋 くるみ1 (1. 産総研)
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キーワード:

ジルコン、マグマ供給系、年代測定、火山噴火

火山下でマグマ供給系が長期にわたりどのように維持されてきたのか,そしてその地球化学的進化が噴火の様式,頻度,規模にどのような影響を与えるのかを包括的に理解することは,将来の火山活動やその発生可能性を高い信頼性で予測する上で極めて重要である.そのためには,まず,マグマ供給系の化学組成の経時変化を明らかにすることが不可欠である.本研究では,雲仙火山を対象として,現在の活動が開始した約60万年前から現在に至るまでのマグマ供給系の長期的な化学組成変化を明らかにすることを目的とした.本発表では,雲仙火山の複数の噴火の噴出物中の個々のジルコン結晶を対象としたウラン-トリウム非均衡年代測定およびウラン-鉛年代測定,微量元素組成分析,ハフニウム同位体分析の結果を中心に紹介する.雲仙火山の過去60万年間の活動は,噴火様式などから,主に古期,中期,新期の3つの時期に分けられる.古期は約60万年前から30万年前,中期は30万年前から15万年前,新期は15万年前以降の期間を指す.古期の噴出物は島原半島全体に分布するが,中期の噴出物は雲仙地溝内にのみ,新期の噴出物は雲仙地溝内の東側にのみ分布する.古期の活動は,玄武岩質マグマによって開始し,その後,噴出物の組成は安山岩からデイサイトに移行した.一方,中期および新期の噴出物は安山岩からデイサイトの組成を示す.本研究では,古期から新期にかけて雲仙火山で噴出した7試料(塔の坂,高岩山,富津,鮎帰の滝,吹越,七面山,および雲仙平成)中の個々のジルコンについて、スイス連邦工科大学チューリッヒ校において,LA-ICP-MSを用いた年代測定と微量元素組成分析を実施した.新期の噴出物中のジルコンに対しては,まずウラン-トリウム非平衡年代測定を実施し,その後,放射平衡状態であった一部のジルコンに対してウラン-鉛年代測定を実施し,結晶化年代を推定した.中期・古期の雲仙の噴出物に対しては,ウラン-鉛年代測定のみを実施した.加えて,年代測定を実施したジルコンに対して,MC-ICP-MSによるハフニウム同位体比測を測定した.本研究で分析した各試料中の個々のジルコンから得られた年代値の分布は,雲仙火山の活動初期に噴出した塔の坂安山岩中のジルコンを除き,いずれも数十万年程度であった.それに対し,塔の坂安山岩中のジルコンの年代分布はおよそ800万年前から2.5億年前程度であった.さらに,それらのジルコンの中にはいくつかの互いに近い年代を示す集団があり,それぞれの集団のジルコンが示す年代値は,西日本から九州にかけてみられる深成岩もしくは変成岩の年代値と近い値を示した.このことから,それらの一部が雲仙火山下に基盤岩として存在し,その中のジルコンが塔の坂安山岩の噴火時に捕獲された可能性がある.また,古期の噴出物は,いずれもおよそ45万年前から60万年前の年代を示すジルコンを多く含んでいた.このことは,この時期に,多くのジルコンが結晶化可能な条件下にあるマグマ供給系が形成され,そのマグマ供給系が,古期雲仙の時代に繰り返し使用されてきたことを示唆する.一方で,新期雲仙火山の噴出物中のジルコンは,それ以前の噴出物と異なり,およそ40万年前以前に結晶化したジルコンを含んでいなかった.このことは,中期と新期の間の期間において,新たなマグマ供給系が形成された可能性を示す.また,古期から新期にかけて噴出物中に含まれるジルコンの微量元素組成は,その結晶化年代によらず,同様の組成分布および分布範囲を示す.さらに,ジルコンのハフニウム同位体比は,個々のジルコンの結晶化年代に依らず,一貫して+4 から +10の値を示し,継続的なマントル由来のマグマの関与を示す.これらの結果は,雲仙火山下のマグマ供給系が過去60万年間化学的に安定した系であり,マグマの組成およびマントルソースに大きな時間変化が無かったことを示唆する.今後,広く国内外の火山にこの手法を適用することで,火山のマグマ供給系はどのような化学的進化を遂げていくのか,そしてその時間スケールはどの程度か,を明らかにできると期待される.

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