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[R6-12]瀬戸内火山岩類の時空分布の再検討

*新正 裕尚1、折橋 裕二2 (1. 東京経済大学、2. 弘前大学)
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キーワード:

瀬戸内火山岩類、中新世、放射年代、西南日本

瀬戸内火山岩類は日本海拡大直後に西南日本弧で起こったマグマ活動でマントルかんらん岩と平衡にあったと見られる高Mg安山岩を含むサヌキトイドの活動で特徴づけられる.従来中部地方の設楽地域から九州東部の大野火山岩類までの分布範囲とされ,その活動時期についてはTatsumi(2006)[1]が主にK-Ar年代のコンパイルにより13.7 ± 1.0 Maとした.近年ジルコンU-Pb法を中心とする年代測定が進み,それらを反映した活動時期の再評価が必要である.本報告では瀬戸内火山岩類の活動時期とともにその分布域の東西端について検討する.紀伊半島の二上層群については全岩K-Ar[2],ジルコンFT年代[3]と古地磁気層序による拘束から[4],最下位の珪長質岩,高Mg安山岩を含むサヌキトイド,その上位の珪長質岩の全体がほぼ15 Maごろの活動とされたが[3],ジルコンU-Pb年代もそれと矛盾ない[5].一方,巽ほか(2010)[6]は小豆島層群について下位の珪長質岩中心の内海層を14.3–14.4 Ma, 上位の安山岩中心の寒霞渓層を13.1–13.4 Maとした.しかし小豆島の西方約10 kmの豊島の安山岩からは14.6, 14.8 Maの40Ar/39Ar年代が報告された[7]. その他の地域から報告されている珪長質火山岩のジルコンU-Pb年代もほぼ14–15 Maの範囲に入る[8].松山・防予諸島地域については14.3–14.4 Ma, 12.1–12.6 MaのバイモーダルなジルコンU-Pb年代が報告されており[9][10].高Mg安山岩を含む安山岩のK-Ar年代もバイモーダルなので[11],約200万年を隔てた若い活動があったことは確実である.したがって,瀬戸内火山岩類はほぼ14–15 Maの活動であり,一部地域でやや若い活動があったと総括される.高Mg安山岩を含むサヌキトイドの活動時期は多くが全岩K-Ar年代のみで拘束されるが,二上層群で見られる珪長質岩と一連の短期間の火成活動からは珪長質岩のU-Pb年代に基づく活動時期と大きく異なるものではないであろう.外帯珪長質火成岩類のジルコンU-Pb年代は14.5 Maをピークとし前後100万年の範囲に入る[12]ので,瀬戸内火山岩の活動と同時期である.
九州西部の天草地域の中新世貫入岩について,広域の岩脈方位から推定される古応力[13]および珪長質火成岩のU-Pb年代と化学組成から[14]瀬戸内火山岩類の延長であることが主張されている.さらに南東方の甑島諸島からも多数の高Mg安山岩組成の岩脈が見出され14.7 ± 0.8 MaのK-Ar年代が報告されている[15]ことから,瀬戸内火山岩類の延長である可能性が示唆されている[16].これは,屋久島花こう岩体の存在から14 Maごろに九州・パラオ海嶺は九州の西方にあり,それ以東に熱い四国海盆沈み込みがあった提案[17]と整合的である.一方,分布東端の設楽地域では高Mg安山岩を含むサヌキトイドを欠くことが指摘されていた.他の瀬戸内火山岩類と類似する岩相とされるざくろ石を含むピッチストンも微量元素組成が明確に異なる.したがって,瀬戸内火山岩類,外帯珪長質火成岩類のセットで代表される高温の四国海盆スラブの沈み込みによって引き起こされた中期中新世火成活動は九州西部から紀伊半島の範囲に制約される可能性が高い.
文献:[1]Tatsumi(2006) Ann. Rev. Earth Planet. Sci, 34. [2]吉川(1997)地質雑, 103. [3]星ほか(2002) 地質雑, 108. [4]Hoshi et al. (2000) JMPS, 95. [5]新正ほか(2021) 地質学会予稿. [6]巽ほか(2010) 地質雑, 116. [7]Nakaoka et al. (2020) Isl. Arc, 30. [8]新正・折橋 (2017) 地質雑, 123. [9]Sato & Haji (2020) Isl. Arc, 30. [10]新正ほか(2017)地質学会予稿. [11]新正・齋藤(2017)地質雑, 123. [12] Shinjoe et al. (2021) Geol. Mag., 158. [13]Ushimaru & Yamaji (2022) J. Struct. Geol., 154. [14]Shinjoe et al., (2024) Isl. Arc, 33. [15]Tonai et al. (2011) Tectonophys., 497. [16]新正ほか(2024)地質学会予稿. [17]Tatsumi et al. (2020) Sci. Rep., 10.

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