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[R7-10]西南日本弧北部九州姫島火山群のマグマ成因の地球化学的検討

*平山 剛大1、芳川 雅子1、柴田 知之1 (1. 広島大学)
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キーワード:

微量元素組成、Sr-Nd-Pb同位体比、マグマの成因、姫島火山群

姫島火山群(HVG)は西南日本弧に属し、北部九州の第四紀火山フロントに位置する火山群である。西南日本弧は、中部日本から九州にかけて広がる沈み込み帯で、26 Maより若いフィリピン海プレート(PSP)がユーラシアプレートの下に沈み込んでいる(Peacock and Wang, 1999)。この火山フロントには、沈み込んだスラブの部分溶融液を起源とすると考えられているアダカイト質の火山岩が広く分布している(e.g., Shibata et al., 2014)。HVGは7つの単成火山から構成され、大海・矢筈岳・金火山ではデイサイトが卓越し、稲積・城山・達磨山・浮洲火山では流紋岩が卓越する(伊藤,1989)。巌谷&倉沢(1986)は溶岩中に含まれる鉱物の組合せに着目し、ザクロ石を含む溶岩群と含まない溶岩群に大別できることを示した。その後、伊藤(1990)はより詳細な岩石記載や全岩主要元素組成分析を行い、デイサイトは角閃石デイサイト、流紋岩は黒雲母含有角閃石流紋岩およびザクロ石を含む流紋岩から構成されていることを指摘した。伊藤(1990)や氏家&伊藤(1991)は、姫島火山群のマグマ成因について、流紋岩中の非平衡な角閃石の存在と全岩主要元素組成が直線的な傾向を示すことから、デイサイトと流紋岩質マグマの2端成分混合で説明可能であると推測した。Shibata et al. (2014) は、デイサイト質マグマの起源として、デイサイトが高いSr/Y比で87Sr/86Sr比が低いことから、沈み込んだPSPの部分溶融液由来のアダカイト質マグマであると考えた。Hirayama et al. (査読中)は、HVGの流紋岩中のザクロ石について外来結晶である可能性を指摘している。姫島のデイサイト溶岩中には変成岩や深成岩等の捕獲岩が報告されており、これらの捕獲岩は領家変成岩由来である可能性が指摘されている (Hirayama et al., 2022) 。以上の事からHVGの成因において地殻物質の影響が示唆されるものの、地殻物質の影響を加味したマグマの成因や進化過程についての理解は未だ不十分である。そこで本研究では、全岩の主要元素・微量元素・Sr-Nd-Pb同位体組成を測定し、姫島火山群のマグマ成因と進化過程の検討を行った。
本研究では便宜上ザクロ石を含まない溶岩グループをGarnet-Free Group (gFg)とザクロ石を含む溶岩グループをGarnet-Bearing Group (gBg)と呼ぶ。gFgの殆どの試料は、SiO2含有量が70 wt%より低いデイサイトで、Sr/Y比が60を超え、87Sr/86Sr ≈比は 0.7036とはほぼ一定である。これはgFgがスラブの部分溶融を起源とするアダカイト質マグマである可能性(Shibata et al., 2014)を支持している。また、gFgの溶岩の微量元素組成を始原マントルで規格化した微量元素パターンは溶岩ごとに大きな違いは見られない。一方のgBgは、SiO2含有量が70 wt%より高い流紋岩で、Sr/Y比が40を下回り、87Sr/86Sr = 0.7039 – 0.7048である。gBgの始原マントル規格化微量元素パターンは、gFgと異なるパターンを示す。また特に最もSiO2に富む城山溶岩の微量元素パターンはSrやZrの負異常が見られるという点で、その他のgBgとも異なる微量元素パターンを示す。これらの地球化学的特徴から、gBgとgFgを生じたマグマは異なる成因で生じた可能性が指摘できる。gBgの多くの溶岩に関しては、gFgの中で最もSiO₂含有量の低い大海溶岩と、gBgの中でSiO2含有量が最も高い城山溶岩の混合により再現できる可能性が高い。一方で、gBgの城山溶岩は、微量元素組成およびSr-Nd同位体比によるモデリングから、地殻を構成する領家変成帯由来の変成岩が部分溶融して生じたメルトを起源とする可能性が示唆される。以上のことから、HVGは小規模な島弧火山群でありながら、スラブの部分溶融液由来マグマと上~中部地殻成分との混合を含む複雑な形成プロセスを経た事が示唆される。また、gFgのようなアダカイトは始生代大陸地殻で卓越するトーナル岩・トロニエム岩・花崗閃緑岩(TTG)と地球化学的特徴の類似性が指摘されてきた(e.g., Martin et al., 2005)。始生代大陸地殻においては、Kに富む花こう岩・モンゾニ岩・閃長岩(GMS)の存在も注目されている(e.g., Moyen et al., 2024)。GMSの生成過程として,火成岩や変成岩の再溶融が示唆されており(e.g., Moyen et al., 2021)、GMSとHVGのgBgが比較できるかもしれない。このことから、始生代における大陸地殻進化とHVGのマグマ進化過程を対比できる可能性を指摘できると考えられる。

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