講演情報
[S2-01]流体相変化に起因する断層脆弱化とすべり挙動
*末吉 和公1、松宮 明日美1、Pramudyo Eko1、平野 伸夫1、渡邉 則昭1、土屋 範芳1,2 (1. 東北大・院環境、2. 八戸高専)
キーワード:
流体相変化、微小き裂、せん断すべり、花崗岩
断層付近において地震の前後で繰り返される間隙水圧の上昇と低下は、地震のサイクルにおける断層強度において重要である。特に、断層すべり時の空間形成に伴う急激な流体圧減少はflash vaporizationと呼ばれ、鉱脈の形成からその存在が示唆されている。また、流体圧の急激な減少は流体相変化を伴い、近傍岩石の冷却を引き起こすことが予想される。このような急激な温度変化は岩石に微細なき裂を発生させ、力学的特性に強く影響することが明らかとなっている(Sueyoshi et al., 2025)。しかし、流体相変化がもたらす微細き裂造成によるすべり特性への寄与は明らかになっていない。本研究では、熱水条件下での流体相変化に伴う破砕が岩石の基礎的な力学的特性およびすべり特性に与える影響を明らかにするために室内すべり実験を行った。
実験には直径30 mm, 高さ40 mmの円柱状に整形した飯舘花崗岩を使用し、軸方向に対して45度の傾斜を持つプレカットを導入することで断層を模擬した。作成後の試料を蒸留水とともにオートクレーブに封入し、300℃で加熱後に大気圧に開放することで熱水条件下の急激な流体圧減少による破砕を再現した。また、300℃に加熱した後に一晩かけて自然冷却させた試料も使用することで、冷却速度による破砕の相違及びすべり特性への寄与について検討することとした。このように事前に破砕を施した試料を、東北大学環境科学研究科設置の樹脂メルト式封圧三軸試験機を用いてせん断すべり実験を実施した。実験条件は、温度150℃, 軸圧55 MPa, 封圧30 MPaとし、封圧を段階的に減少させることで差応力を増加させた。また、実験中は軸変位、アコースティック・エミッション(AE)も同時に測定した。
実験結果から、自然冷却試料では差応力61 MPaにおいて大きなAEエネルギー放出を伴う急激なすべりが確認された。この時の応力状態から静摩擦係数は0.8と見積もられ、最大すべり速度は160 μm/sに達していた。これに対し、急減圧破砕を施した試料では差応力29 MPaで連続的な遅いすべり(~0.1 μm/s)が始まることが示され、この時の断層面に働く応力から計算される静摩擦係数は0.35であった。その後の差応力増加の各段階において同様に連続的な遅いすべりが観測され、これらのすべりに伴うAEエネルギーは極めて小さいことが分かった。また、実験後試料の観察から、急減圧破砕後試料においては特にすべり面の摩耗によるガウジの付着が顕著であることが確認された。これらのことから、急減圧が流体相変化によって起こることを踏まえると、流体に接触する岩石表面が大きく破砕されることですべり面の弱化および摩耗によるガウジ形成を引き起こすと考えられる。また、ガウジの存在は臨界すべり距離に強く影響することが知られており、ガウジの厚さの増加によって臨界すべり距離も増加することから、後続のすべり挙動は安定的になると考えられる。以上を踏まえると、断層すべりによる流体の相変化はすべり面の顕著な弱化を引き起こし、その後はすべり面の摩耗、ガウジ形成、遅い安定的なすべりの促進が繰り返されることとなると考えられる。
Sueyoshi, K., Aoshima, S., Takagi, K., Mizuno, K., Hirano, N., Tsuchiya, N. (2025). Vulnerability of Mechanical Properties of Rocks Generated by Rapid Decompression Fracturing Under Hydrothermal Conditions. Rock Mechanics and Rock Engineering, 1-13.https://doi.org/10.1007/s00603-025-04468-x
実験には直径30 mm, 高さ40 mmの円柱状に整形した飯舘花崗岩を使用し、軸方向に対して45度の傾斜を持つプレカットを導入することで断層を模擬した。作成後の試料を蒸留水とともにオートクレーブに封入し、300℃で加熱後に大気圧に開放することで熱水条件下の急激な流体圧減少による破砕を再現した。また、300℃に加熱した後に一晩かけて自然冷却させた試料も使用することで、冷却速度による破砕の相違及びすべり特性への寄与について検討することとした。このように事前に破砕を施した試料を、東北大学環境科学研究科設置の樹脂メルト式封圧三軸試験機を用いてせん断すべり実験を実施した。実験条件は、温度150℃, 軸圧55 MPa, 封圧30 MPaとし、封圧を段階的に減少させることで差応力を増加させた。また、実験中は軸変位、アコースティック・エミッション(AE)も同時に測定した。
実験結果から、自然冷却試料では差応力61 MPaにおいて大きなAEエネルギー放出を伴う急激なすべりが確認された。この時の応力状態から静摩擦係数は0.8と見積もられ、最大すべり速度は160 μm/sに達していた。これに対し、急減圧破砕を施した試料では差応力29 MPaで連続的な遅いすべり(~0.1 μm/s)が始まることが示され、この時の断層面に働く応力から計算される静摩擦係数は0.35であった。その後の差応力増加の各段階において同様に連続的な遅いすべりが観測され、これらのすべりに伴うAEエネルギーは極めて小さいことが分かった。また、実験後試料の観察から、急減圧破砕後試料においては特にすべり面の摩耗によるガウジの付着が顕著であることが確認された。これらのことから、急減圧が流体相変化によって起こることを踏まえると、流体に接触する岩石表面が大きく破砕されることですべり面の弱化および摩耗によるガウジ形成を引き起こすと考えられる。また、ガウジの存在は臨界すべり距離に強く影響することが知られており、ガウジの厚さの増加によって臨界すべり距離も増加することから、後続のすべり挙動は安定的になると考えられる。以上を踏まえると、断層すべりによる流体の相変化はすべり面の顕著な弱化を引き起こし、その後はすべり面の摩耗、ガウジ形成、遅い安定的なすべりの促進が繰り返されることとなると考えられる。
Sueyoshi, K., Aoshima, S., Takagi, K., Mizuno, K., Hirano, N., Tsuchiya, N. (2025). Vulnerability of Mechanical Properties of Rocks Generated by Rapid Decompression Fracturing Under Hydrothermal Conditions. Rock Mechanics and Rock Engineering, 1-13.https://doi.org/10.1007/s00603-025-04468-x