講演情報
[S2-03]安山岩―CO₂飽和水系における鉱物の選択的溶解による炭酸塩鉱物の組成変化
*久保田 慈苑1、ダンダル オトゴンバヤル1、亀田 知人1、宇野 正起2、岡本 敦1 (1. 東北大学、2. 東京大学)
キーワード:
CO2鉱物化、安山岩、攪拌型バッチ試験
日本において広範囲に分布する安山岩は、MgやCaなどの2価のイオンを豊富に含み、CO₂鉱物固定化の貯留岩として注目されているが、玄武岩や超塩基性岩と比べて、安山岩を用いたCO₂鉱物化に関する実験的研究はほとんど進んでいない。安山岩には、MgやCaなどを含む斜長石や輝石が複数存在しているために、どの鉱物が反応して、どのような組成の炭酸塩鉱物が析出するかはよくわかっていない。特に、CO₂流体の化学的な状態や、物理的な環境(静的環境や流体流動場など)に応答する鉱物の溶解・沈殿挙動、すなわち実際のCCSの多様な動的環境での反応プロセスを再現する実験はほとんど行われていない。本研究では、安山岩に固定するCO₂量の定量的評価と、流動場における一次鉱物の溶解および二次鉱物の沈殿特性の解明を目的として、攪拌型バッチ試験を実施した。
出発岩石は、新潟県長岡地域の安山岩(Andesite_N1、Andesite_N2)と、宮城県蔵王地域の安山岩(Andesite_Z)と、アイスランドの玄武岩(Basalt)である。粉末状の岩石試料(2.0g)と水(50mL)を封入した容器に、CO2ガスを圧入し、圧力20 MPa、温度は150℃及び200℃、攪拌速度80rpmで、10日間の実験を行った。実験後の溶液試料と岩石試料に対し、ICP-OES、EPMA、TG、TPD-MSによる分析を行った。
TPD-MSを用いて各試料に固定されたCO2量を定量した。安山岩試料(Andesite_N1, Andesite_N2, Andesite_Z)を用いた200℃での実験で固着したCO2量は0.13~0.38 mmol/gであり、Basaltを用いた200℃での実験での1.54 mmol/gと比較しても安山岩のCO2固定量は1/10~1/4程度であり、安山岩を用いたCO2鉱物化の有用性が示唆された。全ての試料において岩石―CO2―水の相互反応により形成した炭酸塩鉱物と粘土鉱物(スメクタイト)の存在が確認された。炭酸塩鉱物は、一次鉱物の表面に付着する形で析出し、自形な結晶形を示した。一方、粘土鉱物は、一次鉱物の周囲を取り囲むように析出した。炭酸塩鉱物にはその化学組成に違いがあり、安山岩試料中に含まれていた炭酸塩鉱物はCaとMgの割合が高い(Ca0.57-0.95Mg0.04-0.42Fe0.00-0.11)方解石からドロマイトの組成を示し、一方で、玄武岩を用いた実験後の炭酸塩鉱物はMgとFeの割合が高い(Ca0.15-0.27Mg0.39-0.48Fe0.28-0.45)マグネサイトであった。
これまでに当研究グループでは、安山岩を用いたバッチ実験を行っており、60日でFeに富むマグネサイトが生成することが確認されている。今回の実験での攪拌型バッチ試験ではMgに富む方解石およびドロマイトという析出する炭酸塩に顕著な違いが生じた。この違いの要因を明らかにするため、実験の温度圧力条件でCO2飽和水に岩石を滴定する地化学モデリングを行った。通常の安山岩を滴定すると、マグネサイトが析出し、この系で方解石を析出させるのは平衡論的に困難であることが明らかになった。一方で、斜長石と輝石の割合を変化させる地化学モデルを行うと、両者の比が8:2の場合に、攪拌型バッチ試験で見られたCaおよびMgに富む炭酸塩鉱物が析出し、斜長石と輝石の割合が1:9の場合には、バッチ試験と同様にFeとMgに富む炭酸塩鉱物が生成された。これらの結果は、静置条件下では輝石の溶解が選択的に進むのに対して、攪拌条件下では斜長石の溶解速度が増大することにより、Caに富む炭酸塩鉱物が生じたことを示している。
本研究の結果は、CO2を安山岩に圧入する際に、岩体内部の流動場の多様性が、CaやMgを含む一次鉱物の溶解反応の進行に影響を与え、析出する炭酸塩鉱物の化学組成に違いが生じ、CO2の貯留量や長期安定性に大きな影響を与えることを示唆している。
出発岩石は、新潟県長岡地域の安山岩(Andesite_N1、Andesite_N2)と、宮城県蔵王地域の安山岩(Andesite_Z)と、アイスランドの玄武岩(Basalt)である。粉末状の岩石試料(2.0g)と水(50mL)を封入した容器に、CO2ガスを圧入し、圧力20 MPa、温度は150℃及び200℃、攪拌速度80rpmで、10日間の実験を行った。実験後の溶液試料と岩石試料に対し、ICP-OES、EPMA、TG、TPD-MSによる分析を行った。
TPD-MSを用いて各試料に固定されたCO2量を定量した。安山岩試料(Andesite_N1, Andesite_N2, Andesite_Z)を用いた200℃での実験で固着したCO2量は0.13~0.38 mmol/gであり、Basaltを用いた200℃での実験での1.54 mmol/gと比較しても安山岩のCO2固定量は1/10~1/4程度であり、安山岩を用いたCO2鉱物化の有用性が示唆された。全ての試料において岩石―CO2―水の相互反応により形成した炭酸塩鉱物と粘土鉱物(スメクタイト)の存在が確認された。炭酸塩鉱物は、一次鉱物の表面に付着する形で析出し、自形な結晶形を示した。一方、粘土鉱物は、一次鉱物の周囲を取り囲むように析出した。炭酸塩鉱物にはその化学組成に違いがあり、安山岩試料中に含まれていた炭酸塩鉱物はCaとMgの割合が高い(Ca0.57-0.95Mg0.04-0.42Fe0.00-0.11)方解石からドロマイトの組成を示し、一方で、玄武岩を用いた実験後の炭酸塩鉱物はMgとFeの割合が高い(Ca0.15-0.27Mg0.39-0.48Fe0.28-0.45)マグネサイトであった。
これまでに当研究グループでは、安山岩を用いたバッチ実験を行っており、60日でFeに富むマグネサイトが生成することが確認されている。今回の実験での攪拌型バッチ試験ではMgに富む方解石およびドロマイトという析出する炭酸塩に顕著な違いが生じた。この違いの要因を明らかにするため、実験の温度圧力条件でCO2飽和水に岩石を滴定する地化学モデリングを行った。通常の安山岩を滴定すると、マグネサイトが析出し、この系で方解石を析出させるのは平衡論的に困難であることが明らかになった。一方で、斜長石と輝石の割合を変化させる地化学モデルを行うと、両者の比が8:2の場合に、攪拌型バッチ試験で見られたCaおよびMgに富む炭酸塩鉱物が析出し、斜長石と輝石の割合が1:9の場合には、バッチ試験と同様にFeとMgに富む炭酸塩鉱物が生成された。これらの結果は、静置条件下では輝石の溶解が選択的に進むのに対して、攪拌条件下では斜長石の溶解速度が増大することにより、Caに富む炭酸塩鉱物が生じたことを示している。
本研究の結果は、CO2を安山岩に圧入する際に、岩体内部の流動場の多様性が、CaやMgを含む一次鉱物の溶解反応の進行に影響を与え、析出する炭酸塩鉱物の化学組成に違いが生じ、CO2の貯留量や長期安定性に大きな影響を与えることを示唆している。