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[S2-08]愛媛県東部中央構造線・剪断帯に伴うリスウェナイトの形成過程

*高垣 光1、白勢 洋平1 (1. 愛媛大学・院理工)
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キーワード:

リスウェナイト、中央構造線、炭酸塩化、泥質片岩、愛媛県

【はじめに】リスウェナイトは蛇紋岩などの超苦鉄質岩類の変質によって形成され,炭酸塩鉱物や石英を主とする緑色の岩石である。剪断帯の中や近くに位置することが多く(Hall and Zhao, 1995; Hansen et al., 2005),日本では静岡県出馬(Suzuki et al., 1977),長崎県雪浦(Mori et al., 2007),四国の中央構造線付近及び三波川帯の変成岩中からの産出が報告されている(皆川ほか,2008;白勢ほか,2022;Takagaki and Shirose, 2025)。また三波川帯の蛇紋岩についてはスラブ由来のCO2によるマントルウェッジ蛇紋岩の炭酸塩化反応が報告されている(Okamoto et al., 2021)。本研究では愛媛県四国中央市浦山川中流の三波川帯の泥質片岩剪断帯中,愛媛県新居浜市市場川の中央構造線付近より新たに見出した片状の組織を持つリスウェナイトについて報告を行う。また,浦山川下流の蛇紋岩及びリスウェナイト(Takagaki and Shirose, 2025),東温市表川のリスウェナイト(白勢ほか,2022)とも比較を行い,中央構造線や剪断帯から産するリスウェナイトの形成過程について議論を行う。
【産状・試料】三波川変成帯に属する泥質片岩の剪断帯中にリスウェナイトは産出し,浦山川中流では幅5 cm程度の濃緑色部,薄緑色部を含む片状リスウェナイト,市場川では幅3 cm程度の淡緑色部を含む片状リスウェナイトがそれぞれ産出する。緑色部には長さ数mmの針ニッケル鉱などの硫化鉱物を含む。浦山川下流,表川のリスウェナイト(Takagaki and Shirose, 2025; 白勢ほか,2022)と異なり,炭酸塩化した蛇紋岩を伴わず,リスウェナイト化の規模は小さい。
【実験手法】組織観察,分析にはJEOL製SEM JSM-6510LV,リガク製XRD Ultima IVを用いた。
【結果・考察】片状リスウェナイトはいずれも石英,マグネサイト,ドロマイトを主とし,片状組織を持つ。浦山川中流のものはクリノクロア,タルクを含み,濃緑色部には幅20 μmの含クロムクリノクロア,薄緑色部には幅60~200 μmの含クロム白雲母を脈状に含む。市場川は緑色部には幅10 μmの含クロム白雲母を網目状に伴った30~100 μmの含クロムカオリナイトを含む。また微量の針ニッケル鉱,黄鉄鉱,輝コバルト鉱(浦山川薄緑色),ゲルスドルフ鉱(市場川),磁鉄鉱(浦山川濃緑色),クロム鉄鉱(浦山川薄緑色・市場川)などを含む。クロム鉄鉱は含クロム粘土鉱物に伴いきわめて細粒である。クロム鉄鉱の組成は,浦山川の薄緑色部,市場川の緑色部のものはそれぞれMg/(Mg+Fe) = 0.02,0.00,Cr/(Cr+Al) = 0.81,0.87程度で,いずれも浦山川下流における蛇紋岩化に伴い形成された二次的なクロム鉄鉱の値と近い。片状リスウェナイトの周囲の泥質片岩は浦山川中流ではクリノクロア,市場川では曹長石,白雲母,カオリナイトを含むものの炭酸塩化しており,主に石英,ドロマイトからなる。これまでの研究から,中央構造線付近より産する浦山川のリスウェナイトの形成過程としてはざくろ石帯の変成岩と対応する深度のマントルウェッジ上部にあたる蛇紋岩がCa,Sr,K,Na,CO2を含む流体との反応により炭酸塩化し,炭酸塩化した蛇紋岩からMg,Ca,Cr,Ni,Co,CO2を含む流体が放出され,剪断帯を介して泥質片岩と反応したと考えられている(Takagaki and Shirose, 2025)。本発表の片状リスウェナイトも同様に蛇紋岩と反応した流体が泥質片岩と反応することで形成されたと考えられる。さらに,AsやSbを含む砒トゥチェク鉱(Ni18Sb3AsS16;高垣・白勢,2025),輝コバルト鉱,ゲルスドルフ鉱が炭酸塩化した蛇紋岩及び片状リスウェナイトに含まれるため,炭酸塩化の際にAsやSbを含むスラブ由来の流体との反応が考えられる。またゲルスドルフ鉱および輝コバルト鉱の化学組成より,片状リスウェナイトは浦山川中流で400℃以上,市場川で500℃以上での形成が推定される。泥質片岩中のリスウェナイトに含まれる細粒なクロム鉄鉱の成因はCrを含む流体により形成された可能性と,剪断帯が形成された際に蛇紋岩片を取り込んだ可能性が考えられる。炭酸塩化した蛇紋岩と泥質片岩は上昇時に,蛇紋岩中の蛇紋石やクロム鉄鉱,泥質片岩中の曹長石,白雲母などが完全に分解することにより,約100~200℃程度の比較的低温下で含クロム白雲母や含クロムカオリナイト,含クロムクリノクロアなどが形成され,片状タイプのリスウェナイトが形成されたと考えられる。