講演情報
[S2-11]海水とマントルが出会う場所
*川本 竜彦1 (1. 静岡大学・理)
キーワード:
流体包有物、塩水、均質化温度、酸素同位体地質温度計、水素同位体
私はマントルの中の水流体を研究してきた。残された問題の中で、あと数年の研究者生活内で解きたい問題を考えた。これまで、マントル捕獲岩、蛇紋岩中の炭酸塩鉱物、リストヴェナイトなどに塩水の流体包有物を観察した。その塩濃度は海水に近い値か少し濃いものが多い。ClはH2Oよりも水流体により分配されるだろうし、沸騰によって水蒸気を系外に出せば塩濃度は上昇するため、そのような塩水は海水起源と考えて良いだろう。そこで、表層にある海水とマントルがどこで接するのか知りたいというのが今のwantである。
蛇紋岩とそれに付随する炭酸塩を形成する水和・炭酸化反応と、その逆過程である脱水・脱炭酸反応は、地球表層圏と内部をつなぐ水と二酸化炭素の循環を駆動する。しかし、蛇紋岩や炭酸塩岩から、それらが形成された水和・炭酸化の圧力を推定するのは困難だと考える。今回、流体包有物を利用して温度と圧力を推定する方法を考えたので紹介したい。
蛇紋岩に付随する炭酸塩に含まれる流体包有物を対象に、まず液相と気相が均質化する温度を測定する。その均質化温度に基づいて、流体の状態方程式を求める。温度は、流体と炭酸塩の酸素同位体分別、または、炭酸塩のクランプト同位体分析(Δ47)を用いて決定し、上記の状態方程式を解くことによって、流体包有物形成時の圧力を求めることができる。これにより、これまで不明であったその炭酸化の圧力を知ると期待する。
温度の推定は上述の流体包有物の水素・酸素同位体比を名古屋大学環境学研究科の植村立先生の研究室での測定を開始した。植村実験室では、すでにJAMSTECの吉田健太研究員が三波川帯変成岩中の石英に含まれる流体包有物の酸素と水素の同位体比を測定し報告している(Yoshida et al., Geoscience Letters, 2025)。
最初のターゲットは西アルプスとイタリアのアペニン山脈のオフィカーボネートとした。これらのうち、ほとんど沈み込みの影響を受けていないとされるアペニン山脈の流体包有物の酸素と水素の同位体比は中央海嶺近傍の海洋地殻の掘削コアで推定された熱水の組成に似ている(Kawamoto et al., 2025 JpGU要旨)。流体包有物は塩濃度が4.1±1.4 wt.% NaCl 当量で海水に近く、均質化温度は180±13℃であった。流体包有物とカルサイトの間の酸素同位体比から推定される温度は約100℃である。均質化温度よりも低い同位体平衡温度を示すのは謎であるが、今のところ、カルサイトが180℃付近から低温にかけて成長した積分値と考えている。これらの温度データは、カルサイト形成は低圧で、海洋底付近で起こったことを示す。つまり、海水起源熱水は海洋底の近くでマントルと反応したと提案する。それが海洋底に露出した海洋コアコンプレックスであるか、海洋地殻直下の最上部マントルであったかは区別できない。
次のターゲットは、三波川変成帯のマントルウェッジ起源とされるオフィカーボネート(田中冬馬ほか、2024、JpGU要旨)と、みかぶ緑色岩体の海洋プレート起源とされるオフィカーボネート(大柳、2025、JpGU要旨)である。みかぶ帯に関しては流体包有物のラマン分光測定とマイクロサーモメトリーによる塩濃度と均質化温度の測定を開始したところである(北島ほか、2025、本大会で発表予定)。今後、これらの流体包有物の名古屋大学で水素・酸素同位体比の測定と炭酸塩の酸素同位体比の測定を行うことができれば、流体の同位体比と流体包有物の形成温度条件を理解することができると期待する。
蛇紋岩とそれに付随する炭酸塩を形成する水和・炭酸化反応と、その逆過程である脱水・脱炭酸反応は、地球表層圏と内部をつなぐ水と二酸化炭素の循環を駆動する。しかし、蛇紋岩や炭酸塩岩から、それらが形成された水和・炭酸化の圧力を推定するのは困難だと考える。今回、流体包有物を利用して温度と圧力を推定する方法を考えたので紹介したい。
蛇紋岩に付随する炭酸塩に含まれる流体包有物を対象に、まず液相と気相が均質化する温度を測定する。その均質化温度に基づいて、流体の状態方程式を求める。温度は、流体と炭酸塩の酸素同位体分別、または、炭酸塩のクランプト同位体分析(Δ47)を用いて決定し、上記の状態方程式を解くことによって、流体包有物形成時の圧力を求めることができる。これにより、これまで不明であったその炭酸化の圧力を知ると期待する。
温度の推定は上述の流体包有物の水素・酸素同位体比を名古屋大学環境学研究科の植村立先生の研究室での測定を開始した。植村実験室では、すでにJAMSTECの吉田健太研究員が三波川帯変成岩中の石英に含まれる流体包有物の酸素と水素の同位体比を測定し報告している(Yoshida et al., Geoscience Letters, 2025)。
最初のターゲットは西アルプスとイタリアのアペニン山脈のオフィカーボネートとした。これらのうち、ほとんど沈み込みの影響を受けていないとされるアペニン山脈の流体包有物の酸素と水素の同位体比は中央海嶺近傍の海洋地殻の掘削コアで推定された熱水の組成に似ている(Kawamoto et al., 2025 JpGU要旨)。流体包有物は塩濃度が4.1±1.4 wt.% NaCl 当量で海水に近く、均質化温度は180±13℃であった。流体包有物とカルサイトの間の酸素同位体比から推定される温度は約100℃である。均質化温度よりも低い同位体平衡温度を示すのは謎であるが、今のところ、カルサイトが180℃付近から低温にかけて成長した積分値と考えている。これらの温度データは、カルサイト形成は低圧で、海洋底付近で起こったことを示す。つまり、海水起源熱水は海洋底の近くでマントルと反応したと提案する。それが海洋底に露出した海洋コアコンプレックスであるか、海洋地殻直下の最上部マントルであったかは区別できない。
次のターゲットは、三波川変成帯のマントルウェッジ起源とされるオフィカーボネート(田中冬馬ほか、2024、JpGU要旨)と、みかぶ緑色岩体の海洋プレート起源とされるオフィカーボネート(大柳、2025、JpGU要旨)である。みかぶ帯に関しては流体包有物のラマン分光測定とマイクロサーモメトリーによる塩濃度と均質化温度の測定を開始したところである(北島ほか、2025、本大会で発表予定)。今後、これらの流体包有物の名古屋大学で水素・酸素同位体比の測定と炭酸塩の酸素同位体比の測定を行うことができれば、流体の同位体比と流体包有物の形成温度条件を理解することができると期待する。
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