講演情報

[S2-P-01]海洋地殻岩石試料の物性データの数理学的アプローチに基づく海洋地殻の変質

*伊藤 禎宏1、片山 郁夫1、藤井 昌和2,3、沖野 郷子4、小原 泰彦5,6,7 (1. 広島大・先進理工、2. 極地研、3. 総研大、4. 東大・大気海洋研、5. 海上保安庁・海洋情報部、6. JAMSTEC、7. 名古屋大)
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キーワード:

海洋地殻、変質、物理特性、主成分分析

海洋プレートは海嶺付近の断層や、デタッチメント断層、アウターライズ断層などに海水が侵入することで変質する。そのような海洋プレートが沈み込むことで、地震活動や火山活動、地球規模での水・炭素循環などのさまざまな現象につながるため、海洋プレートの変質は重要である。海洋プレートに含まれる水は直接観測することは不可能であるが、岩石中の空隙や水は岩石の物理特性に大きく影響を与えるため、地震波速度や電気比抵抗などの地球物理探査によって間接的に推定されている。かんらん岩は蛇紋岩化によって地震波速度が大きく変化するため、最上部マントルの変質の程度や運ぶ水の量は地震波速度構造により推定されている。しかし、地殻の岩石は変質による地震波速度の変化が小さいため、地震波速度のみで変質を評価することは困難である。また、地震波速度や電気比抵抗は岩石の変質だけでなく、岩石中の空隙にも大きく影響を受ける。そのため、岩石の物性のみでは空隙率と変質の影響を分離することは難しい。そのため、本研究では岩石の物理特性を測定し、統計科学的な手法を適用することで岩石の変質を定量的に評価することを目的とする。本研究では、KH-23-9南マリアナ航海およびKH-24-4中央インド洋海嶺航海でドレッジ採取された計149試料を用いた。岩相は主に玄武岩、ドレライト、はんれい岩とそれらの岩石が強く変質を受け緑簾石のべインが発達したような岩石を用いた。各試料に対して、乾燥条件および岩石中の空隙に水を含む含水条件の2条件下で地震波速度と電気比抵抗の測定を行った。また、空隙率と固相密度の計算のために実験室で岩石の固相体積と乾燥質量および含水質量の測定を行った。これにより、乾燥/含水条件下のVp、Vs、電気比抵抗、固相密度、空隙率の計8項目に関する物性データを149試料について取得し、多量のデータセットを構築した。地震波速度は岩相によって大きな差はみられず、含水条件は乾燥条件と比べて速度が大きい傾向を示した。含水条件でのP波速度は 4.0−6.0 km/s、S波速度は 2.0−3.5 km/s を示した。地震波速度は空隙率や空隙形状に非常に敏感であるため、これらの結果に有効媒質理論を適用した。その結果、玄武岩がほかの岩相に比べて空隙のアスペクト比が高い傾向が見られた。 Vp/Vs 比は岩相によって大きな差はみられず、含水条件は乾燥条件と比べて Vp/Vs 比が大きい傾向を示した。含水条件での Vp/Vs 比はおよそ2.0を示した。電気比抵抗についても岩相によって顕著な差はみられず、含水条件は乾燥条件と比べて電気比抵抗が小さい傾向を示した。また、空隙率の上昇に伴って電気比抵抗は減少する傾向が見られた。これは岩石中の空隙の連結度が増加したためだと考えられる。多量のデータから変質関連成分の特定を試みるために、これら物理特性データのみを用いて主成分分析を行った。その結果、第2主成分までで全体のデータの約93%を説明していることが分かった。寄与率81%を占める第1主成分の負荷量では、空隙率が最も高い値を示しており、第1主成分が主に空隙率によって構成されていることが明らかとなった。一方、第2主成分は空隙率の負荷量は小さく、地震波速度や電気比抵抗の負荷量は比較的大きい傾向にある。そのため、第2主成分は変質に関連した成分である可能性がある。しかし、物理特性データのみでは今後は岩石試料の化学組成を測定し、化学組成を統合したデータセットによる主成分分析を行い、海洋地殻岩石の変質に関連した成分の特定を試みる。