講演情報
[S2-P-05]大西洋中央海嶺Atlantis Massifにおける蛇紋石化作用の多様性
*数馬田 舜1、野坂 俊夫1 (1. 岡山大学)
キーワード:
蛇紋石化作用、かんらん石斑れい岩、かんらん岩、ブルース石、クロンステッタイト
一般にかんらん岩の蛇紋岩化作用によって水素を含む還元性流体が生成することが知られている。この流体は地下生物圏の拡大を引き起こし,さらには初期地球における生命誕生の原因となった可能性がある。そのため蛇紋岩化作用の過程とその物理化学的条件の解明は地球科学における重要課題の一つであり,これまでに多数の研究がなされてきた。
本研究の対象地域であるAtlantis Massifは,低速拡大海嶺近傍の「海洋性コアコンプレックス」と呼ばれるドーム状隆起岩体のひとつであり,そこでは上部マントルのかんらん岩や下部地殻のかんらん石斑れい岩類が海底付近までテクトニックに上昇している。岩体頂部南側にあるLost City熱水噴出場では比較的低温で強還元性の熱水が噴出しており,これは主に蛇紋岩化作用によって生じたと考えられている(Kelley et al., 2001)。しかしAtlantis Massifの多くの部分は斑れい岩類から構成されており(Blackman et al., 2006など),またLost Cityの熱水の微量元素・同位体組成は斑れい岩類の変質作用の寄与を示唆している(Evans et al., 2024; Seyfried et al., 2015)。したがって熱水の成因を正しく理解するためには,斑れい岩類の変質作用の実態を解明する必要がある。
かんらん岩の蛇紋岩化作用による水素の発生には主に磁鉄鉱の生成が寄与しており,磁鉄鉱は先行して生成した鉄ブルース石の分解によって生じた可能性が高い(例えばBach et al., 2006; Beard et al., 2009)。一方,Hess Deep RiftやOman ophioliteのかんらん石斑れい岩類では蛇紋石とブルース石の共生が欠如しており(Nozaka et al., 2017; Nozaka & Tateishi, 2023),水素の生成過程や生成量はかんらん岩の場合とは異なっていると考えられる。このような鉱物共生の違いは,原岩の岩相だけでなく海嶺拡大速度などの地質環境も反映している可能性があるが,斑れい岩類における蛇紋石化作用については研究事例が少なく,不明な点が多い。そこで我々は,同一の地質環境下にあるAtlantis Massifに産する様々な岩相について蛇紋石化作用に伴う鉱物共生を調べた。
本研究ではIODP第304,305,399次航海で掘削採取されたAtlantis Massifの試料約100個の顕微鏡観察を行い,そのうち十数個のかんらん石斑れい岩(troctolite, olivine gabbro, olivine-bearing gabbroを含む)と数個のかんらん岩についてEPMA分析を,さらにその一部についてラマン分光分析を行った。その結果以下のことが明らかになった。(1)いずれの岩相でもかんらん石をカットするメッシュ状蛇紋石(主にリザダイト)脈が生じている。(2)蛇紋石脈の中央部には磁鉄鉱と磁硫鉄鉱が生成しているが,それらは脈縁部のかんらん石近傍では生成していない。(3)蛇紋石脈には組成不均質性があり,ブルース石,クロンステッタイト,緑泥石,ヒシンゲライトあるいはサポナイトの混在(機械的混合または化学的固溶)を示唆している。(4)初生斜長石の平均Ab値[100Na/(Na+Ca) mol] > 30のかんらん石斑れい岩では,蛇紋石脈にブルース石とクロンステッタイトは混在せず,ヒシンゲライトまたはサポナイトが混在する。(5)初生斜長石の平均Ab値 < 30のかんらん石斑れい岩では,蛇紋石脈縁部にクロンステッタイトまたはブルース石,あるいはその両方が混在する。(6)平均Ab値が同程度のかんらん石斑れい岩を比べると,かんらん石のFo値[100Mg/(Mg+Fe) mol]が比較的低い場合にはクロンステッタイトが,高い場合にはブルース石が産出する。(7)かんらん岩では,蛇紋石脈にブルース石が混在するが,クロンステッタイトはほとんど混在しない。以上の結果は,蛇紋石化作用の初期段階における鉱物共生には,母岩の結晶分化度が影響していることを示唆している。
文献:Bach et al. (2006)Geophys. Res. Lett.; Beard et al. (2009) J. Petrol.; Blackman et al. (2006) IODP Proceedings; Evans et al. (2024) Geochim. Cosmochim. Acta; Kelley et al. (2001) Nature; Nozaka et al. (2017) Lithos; Nozaka & Tateishi (2023) J. Metamorph. Geol.; Seyfried et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Acta
本研究の対象地域であるAtlantis Massifは,低速拡大海嶺近傍の「海洋性コアコンプレックス」と呼ばれるドーム状隆起岩体のひとつであり,そこでは上部マントルのかんらん岩や下部地殻のかんらん石斑れい岩類が海底付近までテクトニックに上昇している。岩体頂部南側にあるLost City熱水噴出場では比較的低温で強還元性の熱水が噴出しており,これは主に蛇紋岩化作用によって生じたと考えられている(Kelley et al., 2001)。しかしAtlantis Massifの多くの部分は斑れい岩類から構成されており(Blackman et al., 2006など),またLost Cityの熱水の微量元素・同位体組成は斑れい岩類の変質作用の寄与を示唆している(Evans et al., 2024; Seyfried et al., 2015)。したがって熱水の成因を正しく理解するためには,斑れい岩類の変質作用の実態を解明する必要がある。
かんらん岩の蛇紋岩化作用による水素の発生には主に磁鉄鉱の生成が寄与しており,磁鉄鉱は先行して生成した鉄ブルース石の分解によって生じた可能性が高い(例えばBach et al., 2006; Beard et al., 2009)。一方,Hess Deep RiftやOman ophioliteのかんらん石斑れい岩類では蛇紋石とブルース石の共生が欠如しており(Nozaka et al., 2017; Nozaka & Tateishi, 2023),水素の生成過程や生成量はかんらん岩の場合とは異なっていると考えられる。このような鉱物共生の違いは,原岩の岩相だけでなく海嶺拡大速度などの地質環境も反映している可能性があるが,斑れい岩類における蛇紋石化作用については研究事例が少なく,不明な点が多い。そこで我々は,同一の地質環境下にあるAtlantis Massifに産する様々な岩相について蛇紋石化作用に伴う鉱物共生を調べた。
本研究ではIODP第304,305,399次航海で掘削採取されたAtlantis Massifの試料約100個の顕微鏡観察を行い,そのうち十数個のかんらん石斑れい岩(troctolite, olivine gabbro, olivine-bearing gabbroを含む)と数個のかんらん岩についてEPMA分析を,さらにその一部についてラマン分光分析を行った。その結果以下のことが明らかになった。(1)いずれの岩相でもかんらん石をカットするメッシュ状蛇紋石(主にリザダイト)脈が生じている。(2)蛇紋石脈の中央部には磁鉄鉱と磁硫鉄鉱が生成しているが,それらは脈縁部のかんらん石近傍では生成していない。(3)蛇紋石脈には組成不均質性があり,ブルース石,クロンステッタイト,緑泥石,ヒシンゲライトあるいはサポナイトの混在(機械的混合または化学的固溶)を示唆している。(4)初生斜長石の平均Ab値[100Na/(Na+Ca) mol] > 30のかんらん石斑れい岩では,蛇紋石脈にブルース石とクロンステッタイトは混在せず,ヒシンゲライトまたはサポナイトが混在する。(5)初生斜長石の平均Ab値 < 30のかんらん石斑れい岩では,蛇紋石脈縁部にクロンステッタイトまたはブルース石,あるいはその両方が混在する。(6)平均Ab値が同程度のかんらん石斑れい岩を比べると,かんらん石のFo値[100Mg/(Mg+Fe) mol]が比較的低い場合にはクロンステッタイトが,高い場合にはブルース石が産出する。(7)かんらん岩では,蛇紋石脈にブルース石が混在するが,クロンステッタイトはほとんど混在しない。以上の結果は,蛇紋石化作用の初期段階における鉱物共生には,母岩の結晶分化度が影響していることを示唆している。
文献:Bach et al. (2006)Geophys. Res. Lett.; Beard et al. (2009) J. Petrol.; Blackman et al. (2006) IODP Proceedings; Evans et al. (2024) Geochim. Cosmochim. Acta; Kelley et al. (2001) Nature; Nozaka et al. (2017) Lithos; Nozaka & Tateishi (2023) J. Metamorph. Geol.; Seyfried et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Acta