ご挨拶
2026年11月26日から28日まで,熊本市熊本城ホールにて,第17回日本地震工学シンポジウム(17th Japan Earthquake Engineering Symposium, 17JEES)を開催するはこびとなりました.17JEESは,(公社)日本地震工学会を幹事学会として,(公社)土木学会,(一社)日本建築学会,(公社)地盤工学会,(一社)日本機械学会,(公社)日本地震学会,(一社)地域安全学会,(一社)日本活断層学会,日本災害情報学会,日本災害復興学会,日本自然災害学会,(公社)日本都市計画学会の計12学会の共同主催で行われます.
JEESは,1962年の第1回からおよそ4年に1度,60年以上,継続して開催されてきた,地震工学に関わる最新の研究成果やバラエティーに富んだ技術展示が一堂に会する権威あるシンポジウムです.今回で第17回になりますが,2026年は熊本地震から10年を迎えますので,熊本市を開催地として決めさせていただきました.第1回から第16回まで,東京での開催が11回,横浜での開催が2回,つくば,千葉,仙台でそれぞれ1回ずつの開催で,関東圏以外での開催は第15回の仙台市と今回の熊本市のみとなります.
15JEESは2018年12月6日から8日まで,仙台市(仙台国際センター)で開催されました.これは,言わずもがな,2011年の東日本大震災からの社会の立ち直り,復旧・復興を意識したためです.15JEESのテーマとして「地震に対する社会安全を考える-被災地の復興にみるレジリエントな未来社会-」がかかげられ,闊達な議論がかわされました.前回の16JEESは,2023年11月23日から25日まで,横浜市(パシフィコ横浜ノース)で開催され,今回の17JEESはそれから3年後の開催となります.16JEESでは,2023年が関東大震災から100年という,我が国の地震防災・減災を考えるうえで節目となる年でしたから,「関東大震災から100年を経て、今後100年の地震工学を考える〜過去に学び、複合化する激甚災害に備えた持続可能な社会を目指して~」というテーマのもと,1,000名近くの参加者をえて,盛況のうちにシンポジウムを開催することができました.
しかし,16JEESの直後の,2024年1月1日には能登半島地震が発生し,1995年の阪神・淡路大震災の既視感に苛まれるような,家屋の倒壊や斜面崩壊等による多くの死傷者を生み出し,被災地のインフラ・ライフラインの機能不全が問題となりました.私共の日常生活の基盤となるかけがえのない地域社会に立ち直りがきかないような凄惨な被害が生じました.復旧・復興の途上にあったこれらの地域は,2024年9月20日から9月22日までの低気圧と前線に伴う大雨に見舞われ,地震起因の強震動,地盤変状,斜面崩壊,津波が組み合わさった複合災害のみならず,地震災害と豪雨災害の連鎖や,地震災害と酷暑等の複合災害についても,地震工学の研究分野からのコントリビューションが求められる時代になってきました.
国際的な視野に立てば, 2024年4月3日の台湾・花蓮や2025年3月28日のミャンマー・マンダレー,2025年7月30日のカムチャツカ半島付近の地震において,長年,研究されてきた断層の破壊に伴う大きな地震が再び発生するなど,依然として世界各国の様々な地域で地震災害によって多くの死傷者が生じ社会インフラの被害が発生し続けています.本年の2025年は阪神・淡路大震災から30年にあたり,17JEESの共同主催となる12学会では各々が得意とする学術専門領域で,この30年間の研究活動をレビューするための数多くの行事が行われています.
こうして考えてみると,前回の16JEESからわずか3年なのですが,私共が慣れ親しんできた,既往のモノの見方や価値観(パラダイム)の変革を求められる難解な時代になっています.3年間ではありますが,生成AIなどによるデジタルトランスフォーメーション(DX)の最新技術は目覚ましく進展し,地震工学の研究分野でもシミュレーションやパラメータ同定などにおいて抜きにはできない技術になってきました.一方,少子・高齢化の人口構成はいびつさを極め,東京一極集中と,東京とその他の地方都市や地域との間の経済格差は益々拍車がかかって,このような社会構造の人手不足のもと,様々な地域で想定されている巨大地震に立ち向かわなければならない現況にあります.国難であるこのような状況を素直に認め,地震防災・減災の観点から少なからず寄与するためには,12学会に象徴されるような,地震工学を取り囲む既往の学術専門領域の垣根をこえ連携し,地震工学の研究分野のパラダイムシフトを,身をもって実行することが不可欠であると考えています.地方都市の代表である熊本市で,また,昨今の半導体工場の誘致など地域経済の観点から元気にみえる熊本県で,今回のシンポジウムのテーマである「熊本地震から10年:災害の多様化時代における地震工学の再定義〜 最新技術と社会連携で拓く、災害に強いレジリエントな社会の創造 〜」について考え,参加者の皆様と今後に活きる指針を打ち出せたら幸いです.多くの皆様方に是非ともご参加いただければと思います.
第17回日本地震工学シンポジウム運営委員会
委員長 庄司 学
