講演情報

[O10-P01]動的植生モデル理解のための可視化環境SEIB-Explorerの開発

*佐藤 永1 (1.海洋研究開発機構 地球環境部門)

キーワード:

動的全球植生モデル、可視化技術、認知負荷の低減、長期森林動態

気候変動に対する植生応答を評価するうえで、動的全球植生モデル(Dynamic Global Vegetation Model: DGVM)は重要な役割を果たしている。しかし、モデル内部では植物個体群動態、炭素・水循環などが複雑に相互作用しながら計算されており、その挙動を把握することはモデル開発者であっても容易ではない。DGVMが出力するのは膨大な数値の集積であり、植生全体としての炭素収支や水収支といった代表値のみを参照していても、モデル内部で何が生じているのかを十分に理解することは難しい。このような課題に対する実践的な必要性から、数値や構造をより直感的に理解するための可視化手法を工夫する目的で、可視化ソフトウェアSEIB-Explorerを開発した。

SEIB-Explorerは、個体ベース植生モデルSEIB-DGVMの実行と三次元可視化、基礎的な解析機能を統合したスタンドアロン環境である。単一サイトにおける森林を仮想スタンドとして表現し、植物機能型の違いや個体レベルの成長・競争過程を空間的・時間的に追跡できる。時間スライダーによる連続的な表示や、数値情報を整理した情報パネルにより、数値データと空間構造を往復しながら理解することが可能となり、モデル挙動を把握する際の認知的負荷を大きく低減した。

その結果、SEIB-Explorerはモデル開発者や研究者のみならず、専門的背景を持たない利用者にとっても、植生動態を直感的に閲覧し、楽しみながら理解できる環境として機能しつつある。教育やアウトリーチの現場においても、森林構造やその時間変化を視覚的に提示することで、数値モデルに対する理解や関心を高める効果が確認されている。

さらに、本環境は数百年スケールにわたる森林動態を連続的に観察することを可能にする。人間の時間感覚では直接経験することが困難な長期的プロセスを、時間を圧縮した形で視覚的に把握できる点は、数値モデルの理解を超えて、自然現象を捉える視点そのものを拡張する。

本発表では、SEIB-Explorerの開発背景と利用事例を通じて、科学的理解の必要性から生まれた可視化が、結果として人が植物生態系を異なる時間軸・視点から眺めるための媒介となり得ることを示す。このような営みは、科学的可視化に基づきつつも、世界の捉え方を更新する実践として、アートとして捉えることも可能ではないかという点についても議論したい。