講演情報

[O12-P92]月は“ポンゾ錯視”の影響をうけるのか? ~満月の観察による月錯視の原因解明~

*黒田 立輝1、平松 侑大1、鈴木 麻紘1、今原 良1 (1. 浜松学芸中学校・高等学校 サイエンス部)

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1. 研究の背景と目的
月の大きさは高度により大きく見えたり小さく見えたりするが,実際に見かけの大きさ(物理学的大きさ)を測ると,多少の誤差を除いてほぼ一定であることが知られている[1].その原因には様々な説明が試みられており,例えば文献[2]では,錯視による心理学的大きさの変化が認められるとされており,文献[1]と同様に,背景物との比較によって物体の大きさに対する認知が歪められる「ポンゾ錯視」の例を挙げている.本研究では,この心理学的大きさの変化の主要因を特定することを目的として,(1)満月の継続的な観測による仮説の構築と,(2)室内実験による錯視メカニズムの検討を行っている.特に,今回の発表では,(1)の2026年2月から4月の観測結果の整理と,本校生徒を対象としたアンケート調査(n=37)の統計分析により,月の心理学的大きさが高度に依存している可能性が高いことについて確認するとともに,今後の錯視メカニズムの検討に向けたいくつかの重要な知見を得たので,報告する.

2. データと手法
満月の継続的な観測は,同一地点・同一倍率設定において,スマートフォンにより撮影された写真を用いて行った.写真に収められた月の直径をデータ内で測定することにより,満月の物理的大きさを調べ,撮影月や時間帯,大気条件等による大きな変動がないことを確認した.
また,本校生徒を対象としたアンケート調査(n=37)では,観測時刻(満月の高度),観測場所(観測条件)に対する自由記述による回答のほか,満月の心理学的大きさを4段階(小さいと感じる,やや小さいと感じる,やや大きいと感じる,大きいと感じる)で評価させ,特に満月の高度と心理学的大きさの相関について,統計的手法を用いて検討した.なお,満月の高度は国立天文台の「太陽系天体の高度と方位」の計算スクリプトを用いて計算し[3],簡単のため,2.0度~19.0度を「低高度」,それ以上を「高高度」として2値的に分類して用いた.

3. 結果と考察
2026年2月から4月までに行ったアンケート調査(n=37)の結果を元に,満月の高度と月の大きさの関係を調査した.その結果,まず,満月の大きさについて「小さいと感じる」または「やや小さいと感じる」と回答した9名のうち,観測時間における満月の高度が低高度に対応する値であったものは2名(約22 %),高高度に対応する値であったものは7名(約78 %)であった.また,「大きいと感じる」,「やや大きいと感じる」と回答した24名のうち,低高度に対応する値であったものは14名(約 58 %),高高度に対応する値であったものは10名(約42 %)であった.以上の結果から,特に「小さいと感じる」場合について,満月が高高度である割合が高いことが分かった.なお,これらの値に有意差が存在するかについては,現時点での回答数の少なさから評価できる段階になく,アンケート結果の蓄積を待たなければならないと思われる.
また,これらの調査日における月の視半径の変動については,いずれの日も約1分程度と小さく(最小値15.1分,最大値16.2分),満月の物理的大きさは,観測において月の大きさの認知に影響を与えるものではないと考えられる[3].このことから,月の大きさの認知について,錯視による心理学的大きさの変化が生じていた可能性が示唆される.

4. 今後の展望
 アンケート調査を通して得られた課題として,(1)回答数の少なさ,(2)低高度,高高度の定義の妥当性の2点が挙げられる.また,満月の大きさの判断については個人に依存している部分があり(その中でも,高高度であれば小さく感じるという結果が得られたことは興味深いが),いかに客観的な指標を得るかについても考察の余地があると思われる.
さらに,アンケートの回答については,回答時間と観測時間として入力されている時刻に明らかに齟齬のあるものが4件含まれており,分析から除かざるを得なかった.この点については,研究調査の意義について校内に積極的に発信することにより,回答者のモラルの改善を図る必要があるものと思われる.

謝辞
本研究は,浜松学芸中学校・高等学校サイエンス部顧問の伊藤信一先生,村上拓先生の指導の下実施された.また,アンケート調査にあたっては,本校サイエンス部および物理基礎受講生の皆様からの多数の善意の回答を得た.ここに記して,感謝の意を表明する.

参考文献
[1] 小栗妙子,“大きい月 小さい月”, 星空案内,11, 3(2025).
[2] 苧阪良二,“地平の月はなぜ大きいか”,講談社(1985).
[3] 国立天文台,“月高度算出サイト”https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/
horizontal.cgi(2026年4月閲覧).