講演情報
[PPS12-09]小惑星中のフランボイダルマグネタイトの前駆体に関する実験的研究
*近藤 智仁1、榊原 雅也1、山﨑 智也1、木村 勇気1 (1.北海道大学低温科学研究所)
キーワード:
小惑星、結晶成長、マグネタイト、メソクリスタル、グリーンラスト
【序論】
フランボイダルマグネタイトは、始原的な小惑星由来の試料中に観察される数百ナノメートルからマイクロメートルサイズのマグネタイト粒子の集合体である1, 2。46億年前に水質変成によって形成されたと考えられているが、実験的には再現されておらず、形成条件や形成過程の統一的な理解には至っていない。これを明らかにするため、本研究では、水溶液からの沈殿による再現実験を行った。
小惑星中で起こりうるマグネタイトの形成過程として、酸化鉄ナノ粒子を合成する一般的な方法であり、鉄塩水溶液への塩基の添加によって水溶液中の鉄イオンを沈殿させる共沈法を用いた。共沈法では、Fe2+に富む六角平板上の鉄水酸化物であるグリーンラストや、低結晶性の含水Fe3+オキシ水酸化物であるフェリハイドライトを前駆体としてマグネタイトが形成することが示唆されている3。フランボイダルマグネタイトと同程度の大きな粒子の合成を行うため、塩基の添加にはアンモニア水の気液平衡を用いて、pHの急激な上昇を防ぎながら低過飽和度で成長させた。また、小惑星の加熱による氷の融解後の温度環境を模倣するため、低温から室温への昇温条件で合成を行った。
【実験方法】
内径45 mmの容器に入れた10 mLの鉄塩溶液(FeCl3・6H2O:30 mmol、FeCl2・4H2O:30 mmol)を1.2 %, 42 mLのアンモニア水と共にPTS袋に入れ、窒素ガスを封入し密閉、1℃に設定した冷凍庫内に4日間静置して反応させた。(Fig. 1) 。その後、合成された粒子を含む溶液をマイクロチューブに採取し、室温でさらに7日間静置して反応を進行させた。反応後の試料は、純水で洗浄後エタノールに分散させ、グリッドに滴下してTEM観察を行った。また、冷凍庫内で4日間静置した後、室温に昇温せず、すぐにTEMグリッドに滴下した試料の観察も行った。
【結果・議論】
電子回折図形から、試料中のほとんどの粒子がマグネタイトであることを確認した。TEM観察を行ったところ、10 nmから200 nmのマグネタイト粒子が観察され、一部にフランボイダルマグネタイトに類似した100 nm以上の凝集体が見られた(Fig. 2A)。また、多数の粒子から成る六角平板状の粒子が観察された(Fig. 2B)。電子回折図形より、この粒子はマグネタイトであり、結晶方位を揃えていることから、マグネタイトのメソクリスタルである。同じ試料中には、同様の六角平板が溶解した後にその外周を囲むように残ったように見える配向したゲーサイトも確認された(Fig. 3)。
低温から採取後、すぐにTEMグリッドに滴下した試料では、マグネタイトのほかに、マグネタイトの前駆体と考えられるフェリハイドライトや、水酸化鉄(Ⅱ)の急速な酸化によって得られることが知られているフェロキシハイト、マグネタイトメソクリスタルと類似した六角平板状のヘマタイト単結晶粒子(Fig. 4)が観察された。
グリーンラストは六角平板状の形状をしているため、六角平板状に集積しているマグネタイトメソクリスタルやゲーサイトは、前駆体としてグリーンラストが存在していたことを示唆する。また、マグネタイト粒子の凝集体やマグネタイトメソクリスタルは、Fe²+に富むグリーンラストが関与して緩やかに形成されたと考えられる。ヘマタイト単結晶においても、溶存酸素やグリッド上での乾燥過程等においてグリーンラストの酸化によって形成されたと考えられる。小惑星中においても、還元的な低温環境下での、Fe²+に富むグリーンラスト前駆体相からのマグネタイト成長が、サブマイクロメートルサイズの粒子への成長や、フランボイダルマグネタイトへの凝集に寄与していると考えられる。今後は、今回直接観察することのできなかったグリーンラストの直接観察を試みる。
1) Nakamura, T. et al. Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: direct evidence from returned samples. Science 379, eabn8671 (2022).
2) Nozawa, J. et al. Magnetite 3D colloidal crystals formed in the early solar system 4.6 billion years ago. J. Am. Chem. Soc. 133, 8782–8785 (2011).
3) LaGrow, A. P. et al. Unravelling the growth mechanism of the co-precipitation of iron oxide nanoparticles with the aid of synchrotron X-Ray diffraction in solution. Nanoscale 11, 6620–6628 (2019).
フランボイダルマグネタイトは、始原的な小惑星由来の試料中に観察される数百ナノメートルからマイクロメートルサイズのマグネタイト粒子の集合体である1, 2。46億年前に水質変成によって形成されたと考えられているが、実験的には再現されておらず、形成条件や形成過程の統一的な理解には至っていない。これを明らかにするため、本研究では、水溶液からの沈殿による再現実験を行った。
小惑星中で起こりうるマグネタイトの形成過程として、酸化鉄ナノ粒子を合成する一般的な方法であり、鉄塩水溶液への塩基の添加によって水溶液中の鉄イオンを沈殿させる共沈法を用いた。共沈法では、Fe2+に富む六角平板上の鉄水酸化物であるグリーンラストや、低結晶性の含水Fe3+オキシ水酸化物であるフェリハイドライトを前駆体としてマグネタイトが形成することが示唆されている3。フランボイダルマグネタイトと同程度の大きな粒子の合成を行うため、塩基の添加にはアンモニア水の気液平衡を用いて、pHの急激な上昇を防ぎながら低過飽和度で成長させた。また、小惑星の加熱による氷の融解後の温度環境を模倣するため、低温から室温への昇温条件で合成を行った。
【実験方法】
内径45 mmの容器に入れた10 mLの鉄塩溶液(FeCl3・6H2O:30 mmol、FeCl2・4H2O:30 mmol)を1.2 %, 42 mLのアンモニア水と共にPTS袋に入れ、窒素ガスを封入し密閉、1℃に設定した冷凍庫内に4日間静置して反応させた。(Fig. 1) 。その後、合成された粒子を含む溶液をマイクロチューブに採取し、室温でさらに7日間静置して反応を進行させた。反応後の試料は、純水で洗浄後エタノールに分散させ、グリッドに滴下してTEM観察を行った。また、冷凍庫内で4日間静置した後、室温に昇温せず、すぐにTEMグリッドに滴下した試料の観察も行った。
【結果・議論】
電子回折図形から、試料中のほとんどの粒子がマグネタイトであることを確認した。TEM観察を行ったところ、10 nmから200 nmのマグネタイト粒子が観察され、一部にフランボイダルマグネタイトに類似した100 nm以上の凝集体が見られた(Fig. 2A)。また、多数の粒子から成る六角平板状の粒子が観察された(Fig. 2B)。電子回折図形より、この粒子はマグネタイトであり、結晶方位を揃えていることから、マグネタイトのメソクリスタルである。同じ試料中には、同様の六角平板が溶解した後にその外周を囲むように残ったように見える配向したゲーサイトも確認された(Fig. 3)。
低温から採取後、すぐにTEMグリッドに滴下した試料では、マグネタイトのほかに、マグネタイトの前駆体と考えられるフェリハイドライトや、水酸化鉄(Ⅱ)の急速な酸化によって得られることが知られているフェロキシハイト、マグネタイトメソクリスタルと類似した六角平板状のヘマタイト単結晶粒子(Fig. 4)が観察された。
グリーンラストは六角平板状の形状をしているため、六角平板状に集積しているマグネタイトメソクリスタルやゲーサイトは、前駆体としてグリーンラストが存在していたことを示唆する。また、マグネタイト粒子の凝集体やマグネタイトメソクリスタルは、Fe²+に富むグリーンラストが関与して緩やかに形成されたと考えられる。ヘマタイト単結晶においても、溶存酸素やグリッド上での乾燥過程等においてグリーンラストの酸化によって形成されたと考えられる。小惑星中においても、還元的な低温環境下での、Fe²+に富むグリーンラスト前駆体相からのマグネタイト成長が、サブマイクロメートルサイズの粒子への成長や、フランボイダルマグネタイトへの凝集に寄与していると考えられる。今後は、今回直接観察することのできなかったグリーンラストの直接観察を試みる。
1) Nakamura, T. et al. Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: direct evidence from returned samples. Science 379, eabn8671 (2022).
2) Nozawa, J. et al. Magnetite 3D colloidal crystals formed in the early solar system 4.6 billion years ago. J. Am. Chem. Soc. 133, 8782–8785 (2011).
3) LaGrow, A. P. et al. Unravelling the growth mechanism of the co-precipitation of iron oxide nanoparticles with the aid of synchrotron X-Ray diffraction in solution. Nanoscale 11, 6620–6628 (2019).
