講演情報

[PPS12-11]小惑星Ryugu試料に含まれる衝撃溶融物の鉱物学的分析

*髙瀬 大河1、松本 恵1、中村 智樹1、福田 佳乃1、川田 理栄仁1、石田 世実1、山下 翔平2、高橋 嘉夫3 (1.東北大学、2.高エネルギー加速器研究機構、3.東京大学)

キーワード:

リュウグウ、炭素質小惑星、衝撃溶融、TEM/STEM-EDS、STXM、SEM-EDS

探査機はやぶさ2による観測とリターンサンプルの初期分析から,小惑星Ryuguは過去に天体衝突による大規模な破壊と再集積を経験したラブルパイル天体であることが明らかとなった(e.g., Watanabe et al. 2019; Nakamura et al. 2022).この破壊は一度ではなく,複数回にわたって生じた可能性が指摘されている(Walsh et al. 2024).しかしながら,ほとんどのRyugu試料は衝撃の痕跡を示さない.これまでに報告された断層組織やCalciteの転位からは,概ね5 GPa未満の衝撃圧力が示唆されている(Tomioka et al. 2022, 2023, 2025; Miyahara et al. 2024; Nakahashi et al. 2025).本発表では,新たにRyugu試料中に発見した衝撃溶融物について鉱物学的な分析を行い,その組織をもとに,経験温度と圧力を見積もった.
 衝撃溶融物は,JAXAの国際研究公募第二期で配分されたRyugu aggregate試料(C0213)からピックアップした,径~150 μmの粒子(C0213-036)中に見つかった.この粒子について,まずKEK PF BL-3Aで放射光X線回折分析(XRD)を行った.次に粒子をXeプラズマ集束イオンビーム加工装置(pFIB: TESCAN S8000X)を用いて切断研磨し,同装置に付属する走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)で断面を観察した.この断面に衝撃溶融物が発見された. Ga集束イオンビーム加工装置(FIB; FEI Quanta 200i 3D)を用いて衝撃溶融物の超薄切片を二つ作成した.作成した超薄切片に対して,KEK PF BL-19Aの走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いて炭素のK吸収端,鉄のL吸収端近傍構造解析(C K-edge/Fe L-edge XANES)を行ったのちに,(走査)透過電子顕微鏡(TEM/STEM-EDS; JEOL JEM-2100F)を用いて組織観察および元素分析を行った.
 放射光XRD分析では,C0213-036粒子は,olivine, magnetite, pyrrhotite, pentlanditeの回折ピークを示し,層状珪酸塩の(001)底面反射は弱くブロードであった.これらの特徴は,Ryugu試料の中でも水質変成の度合いが低いLess altered岩相と一致する(Nakamura et al. 2022; Mikouchi et al. 2022).
衝撃溶融物は粒子断面の中央部に存在し,大きさは~25 μmである.天体最表面で起こる宇宙風化により形成される溶融物は一般に厚さが< 10 μmと小さく(e.g., Noguchi et al. 2023),本研究で観察された溶融物とはサイズの点で明確に区別される.
衝撃溶融物はナノサイズのFe-sulfideとその間を埋める珪酸塩マトリクスから主に構成され,マトリクス中には有機物, olivine, Fe-Ni phosphide, chromite, taeniteが少量存在する.また直径~100 nmから~3 µmまでの多様なサイズの気泡がみられ,これらの多くは球形である.これは気泡形成時に周囲の物質が溶融していたことを示唆する.溶融物の珪酸塩マトリクス部分のTEM制限視野回折はハローを示し,層状珪酸塩が加熱により溶融した後,急冷されて珪酸塩ガラスとなったと解釈される.珪酸塩マトリクスの(Mg+Fe)/Si比は約1.1である.
 Ryugu試料とよく似た鉱物組成をもつOrgueil隕石のパルス加熱実験では,溶融物と気泡は1000 ℃を超える加熱で形成されることが報告されており(Rudraswami et al. 2025),本組織もこのような高温を経験したと考えられる.またOrgueil隕石への火薬銃を用いた衝撃実験において,天然での衝撃圧力約10 GPaに相当する衝撃で本研究において観察されたナノサイズのFe-sulfideや溶融組織,気泡などと類似する組織が形成され,約4 GPaに相当する衝撃では形成されない(Nakahashi et al. 2025).ゆえに本研究の溶融物も10 GPaに近い高圧を経験した可能性がある.
 衝撃溶融物の珪酸塩マトリクス部分のFe L-edge XANESでは,典型的なRyugu試料よりもFe2+に富み,宇宙風化層のXANESスペクトルと類似している(Nakamura et al. 2022; Noguchi et al. 2023).これは衝撃溶融物が還元的な環境下で形成されたことを示唆する.