講演情報

[U17-11]COワールドにおける金属錯体を用いた光触媒的な化学進化におけるClイオンの効果

*山田 裕介1 (1.大阪公立大学)

キーワード:

紫外線、金属錯体、金属硫化物、海水

生命発生の起源である化学進化において、大気中での気相化学反応が大きく関わっていることは間違いない。しかしながら、陸上あるいは水中での化学進化の過程においては、種々の鉱物が触媒として関与した可能性がある。特に大気中のCOやCO2が炭素源となり、多くの有機化合物が生成したことを考えると、紫外光ならびに可視光を利用してこれらの還元反応を駆動できる種々の金属酸化物や金属硫化物半導体が光触媒として機能した可能性がある。これまで半導体光触媒の研究は、水分解を中心に人工光合成研究の一分野として広く行われてきた。これらの研究を通して、d5またはd10遷移金属イオンを含む多くの金属酸化物半導体が紫外光を用いて水を電子源とする還元反応ができることや、多くの金属硫化物が自己酸化を起こすので安定性は低いものの可視光応答性を示すことなどがわかってきた。また、これらの反応系に塩素イオン(Cl)が存在すると、半導体光触媒によるCl酸化が進行し(2Cl + 2H2O +4h+ → 2HClO + 2H+)、HClOが生成することが報告されている。このHClOは紫外光が照射されると分解して酸素を発生するため(2HClO → O2 + 2Cl + 2H+)、水の光分解の研究分野では水の酸化反応を効率よく進行させるためのredox mediatorとみなされてきた。
しかしながら、反応系中に酸化可能な有機物があると話が変わってくる。なぜなら、HClOをはじめとする塩素のオキソ酸は強い酸化力を持つためである。例えば、近年注目を集めている二酸化塩素(ClO2)は常温常圧でメタンを酸化し、メタノールや蟻酸に変えることが可能である。また、過塩素酸イオン(ClO4)も、種々の有機合成での利用が報告されている。これらの中でもHClOは最も酸化力が強いことが知られており、現代ではプールの消毒や紙パルプの脱色などに利用されているが、原子地球ではメタンを酸化してCOやメタノール、蟻酸を生成させていた可能性もある。そこで、金属酸化物ならびに硫化物半導体光触媒をメタンを流通させながら食塩水に浸漬させ、光を照射することでCOワールドの根幹となるCOの生成、さらには、メタノールや蟻酸の生成がみられるのか、を検討した。
また、原子地球の大気に一定量のCOが含まれていたのならば、地表に存在する鉄やニッケルなどの金属と反応し、鉄カルボニル錯体やニッケルカルボニル錯体が生成していたと考えられる。これらのカルボニル錯体は紫外光照射下でCO配位子が脱離することで、金属上に空き配位座が生成する。その結果、CO変性反応などの化学反応の触媒として機能することができる。先に述べた錯体のうち、単核の鉄カルボニル錯体やニッケルカルボニル錯体は沸点がそれぞれ、103°C、42°Cと低いため、生成しても地表にとどまっていなかった可能性が高いが、複核の鉄カルボニルは不溶性、不揮発性の固体である。そのため、地表に止まった後、海水に晒される可能性も十分にある。海水中において、これらの錯体が紫外線照射されるとCO配位子が外れ、Clなど海水中の配位性分子が配位することも考えられる。特に、原始地球環境下では海水中にはシアン化物(CN)イオンが存在していたと言われているので、シアノ錯体が生成した可能性がある。プルシアンブルーをはじめとする金属シアノ錯体は種々の化学反応を触媒することが知られている。そこで、まずはFe2(CO)9およびFe3(CO)12錯体を海水を模した塩水に浸漬させた際に生じる化学種をエレクトロスプレー型質量分析計(ESI-MS)を用いて検討した。その結果、Fe2(CO)9, Fe3(CO)12のいずれを用いた場合も塩水に浸漬させることで複数の新たな化学種の生成が確認された。さらにこれらの溶液に紫外光を照射したところ、これらの新たに生成した化学種由来のピークは消失したことから、Clイオンの共存下で紫外光を照射すると反応性が高い新たな化学種が生成することを見出した。反応の詳細に関しては現在、検討を行っている。