講演情報

[S1-01]身体意識の再構築と立ち上がり動作の回復が関連付けされた両側麻痺患者
− 3年間の不可能を克服した症例  −

*沖田 学1,2、田島 健太朗1,2、沖田 かおる2、鎌倉 紘平2、國友 晃1,2 (1. 愛宕病院 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門、2. 愛宕病院 リハビリテーション部)
【はじめに】
本報告は認知神経リハビリテーションにおける身体と意識の相互作用についての一例を示す。身体感覚による身体認識を通じて立ち上がり動作を再学習し、3年間不可能であった独力での立ち上がりを実現した症例を紹介する。

【症例紹介】
症例はボツリヌス療法(BT)と運動療法を希望して入院した約70歳の女性である。13年前の右被殻出血と3年前の左視床出血により両側麻痺を呈し、他施設で運動療法とBTを受けていた。Br.stageは右側Ⅴ左側Ⅲで筋緊張が高く左側に短下肢装具と反張膝装具を必要とした。当院では BTを左上肢筋、左後脛骨筋、左右の腓腹筋とヒラメ筋に施注した。下肢の表在深部感覚は右側中等度で左側重度の鈍麻、両下肢が痺れていた。右側固定物把持での立位や移乗動作は中等度介助、歩行は重介助を要し立ち上がり後の姿勢保持も困難であった。彼女は左傾斜をまっすぐと誤認し、努力的な動作が習慣となり「がんばってふんばるだけ」と立位姿勢の修正指示に従えなかった。自発的な姿勢修正は困難で、他動的な提示後にのみ修正できた。感覚情報を通じた身体意識の不適正化が行為や回復の妨げになっていた。

【課題と経過】
彼女の志向性を動作の遂行から身体に向けることを目的に実施した。体幹の姿勢変化を体性感覚で認識する課題を中心に実施した。正中に近い姿勢から他動で頭部体幹を回旋や側屈させ、身体メージに準じて修正する課題を座位と立位で行った。介入1週間後には立位が修正できるようになり、右腰のスポンジの触圧覚に合わせて骨盤を制御する課題を追加し、ストレッチと振り出し練習も併用した。
徐々に頭部と体幹を比較して身体を意識できた。この頃に、日本舞踊をしていた時の“立つ感じ”を思い出して教えてくれた。約2週間後、独力で立ち上がることが可能となり立位を自立保持できた。彼女は「3年ぶりに独りで立つことができた」と喜んだ。移乗動作が軽介助でできた。

【考察】
症例の進展は、身体の知覚と意識の再統合を促す過程を示す。努力的な動作学習から、認知運動課題による運動感覚的意識を用いた学習への転換が、自らの動きや姿勢の認識や想起を可能にした。本症例では、BTの使用と体幹の制御感による相乗効果が顕著であり、背景にある身体と意識の新たな関係性を探求する一助となった。

【倫理的配慮】
症例に撮影と発表の説明を行い、同意を得た。個人情報の匿名性にも留意した。

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