講演情報

[S1-08]運動予測と体性感覚情報を利用した認知運動課題により姿勢制御能力が向上した多発性脳梗塞患者

*渡辺 大晴1、沖田 学1,2、下市 紘平1、羽方 裕二郎1 (1. 医療法人新松田会愛宕病院、2. 医療法人新松田会愛宕病院 福島孝徳記念脳神経センター ニューロリハビリテーション部門)
【はじめに】
多発性脳梗塞により予測的な姿勢制御が困難となった症例に対して運動イメージや運動予測を用いた介入を行った.その結果,姿勢制御能力が改善したため報告する.

【症例報告】
症例はふらつきや喚語困難が出現し救急搬送された90歳台の男性である.MRIでは左中大脳動脈領域と左小脳に梗塞を認めた.右側身体評価としてBr-stage下肢Ⅴ,足底部の表在感覚は中等度~重度鈍麻であった.またFunctional balance Scale(以下FBS)19/56点であった.歩行は右4点杖及び左腋窩介助レベルであった.症例の特徴として立位肢位は右下肢への重心偏位及び体幹左側屈が観察され,正中位へと徒手的に修正すると「左に傾いているようで怖い」と訴えた.また椅子への着座動作では背もたれに背をつける際に驚愕した反応を認め,さらに立位での上肢挙上動作でも同様の現象を示し,姿勢保持できずに後方へふらついた.ただしこれらの現象は動作開始時のみ認めたもので動きを何度か試行することで驚愕した反応は消失した.

【病態解釈と課題】
動作開始時の不安定性は運動予測の不鮮明さによるものだと仮定した.そこで治療課題では立位で他動的に身体を回旋・側屈させ,予測情報を提示後にその動きを自動にて再生することで支持基底面内での重心制御を高めた.また左stiff kneeに対してスポンジを用いた硬度識別課題により,膝関節運動中心とした緩徐なheel offを促した.さらに目標物に足をリーチする課題を行い,振り出し幅の認識を修正した.このような認知運動課題を行うことで動きに伴う身体部位の運動方向や距離を知覚し,予測させながら姿勢や運動を制御させ,予測と実際の体性感覚情報の不一致を是正させた.

【結果】
課題開始約8週後はFBS28/56点となり,立位の身体傾斜が改善され,「立つのが怖くない」と変化を認めた.さらに動作開始時も姿勢対応できた.歩行は右4点杖及び左腋窩介助にて身体垂直性の獲得及び左stiff kneeの改善を認めた.

【考察】
症例は身体イメージの誤認及び運動予測の構築が不鮮明であったため,動作開始時に不安定性が出現した.そこで体性感覚情報を基に,予測誤差を最小化するための反復練習を行い,適応的な制御が可能になったと考えた。

【倫理的配慮】
本人に紙面で発表の説明し同意を得た.また個人情報の保護に留意した.

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