講演情報

[S4-03]論理的理解を求める対話が困難な症例に対する体系的介入の試み

*藤原 捺生1、赤口 諒1、池田 勇太1、伊藤 拓海1、奥埜 博之1 (1. 摂南総合病院リハビリテーション科)
【はじめに】
目標とする行為の改善には、対象者の言語理解能力を把握し、介入課題の適切な難易度が重要である。今回、複数の情報を言語化し対話を通して論理的に理解をすることが困難な症例に対し、視覚や他の体性感覚情報を用いた体系的な課題を設定し、介入した経過を報告する。

【症例】
症例は第1腰椎椎体骨折後に椎体形成術、椎体固定延長術を施行した80歳代の女性である。教育歴が小学1年生までで、読み書きは他者に頼ってきた。認知機能はMoCA-Jが23点であり見当識、短期記憶は保たれているが復唱、語想起課題で減点を認めた。理学療法評価(術後28日)では、MMTは左股関節外転2、TUGは16.3秒、BBSは43点であった。歩行時は左立脚期の股関節の内転と小趾側への荷重が不十分であり、体幹側屈の代償に伴い転倒リスクがあった。このとき、「親指で踏ん張っている、頼りなくて不安」と経験していたが、療法士が大腿外側に触れることで安心感を訴えていた。足底圧の認識などの単純な情報では対話が成立するが、股関節内転角度に伴う足底圧の変化の認識など、複数の情報の統合を求める際には論理的な理解が困難であった。

【結果】
対話が中心の介入では課題の難易度が高いと考え、他者の立位での左右への重心移動時における股関節の運動と足底圧の関係を視覚で分析する課題、及び大腿外側への接触を手掛かりとした重心移動練習を体系的に実施した。重心移動練習では立位での左右への重心移動時に大腿外側にクッションを接触させ、硬度の違いを手掛かりとして股関節内転角度と足底圧の差異の識別を求めた。介入課題は40分5日間実施した。その結果、左股関節外転のMMT3、TUGは13.1秒、BBSは48点に改善し、歩行時の左立脚中期にて股関節内転に伴う小趾側への荷重がみられ「しっかりしてきた」と内省が変化した。

【考察】
大腿外側の接触を用いた介入は、接触による手がかりと重心位置の空間情報を代替的に提供し、身体的・認知的負荷を軽減させ、足底の圧情報との関係づけに伴う歩行能力の改善に至ったと考える。複数の情報を統合する際に対話での介入展開が困難な症例に対し、視覚や他の体性感覚情報を用いた課題を体系的に実施することで適切な難易度設定が可能となり、行為の改善に寄与する可能性がある。

【倫理的配慮(説明と同意)】
本発表について書面にて症例に説明し同意を得た。

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