講演情報

[S5-03]左空間の探索時に特徴的な所見を認めた症例に対する介入

*藤原 瑶平1、寺田 萌1、市村 幸盛1 (1. 医療法人穂翔会 村田病院)
【はじめに】
半側空間無視の改善過程で,視線を無視空間へ意図的に向けるといった代償を認めることがある(Takamura,2016).今回,意図的な無視空間の探索時,右空間を固視したまま頭頸部のみが左回旋する症例に対し,介入したため報告する.

【症例】
脳梗塞発症後4ヶ月が経過した70歳代の右利き女性.病変は右半球の広範囲に認めた.神経学的所見は左BRS上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅲ,感覚は遠位にかけて重度鈍麻,左半盲も認めた.MMSE:19点,BIT:通常40点,CBS:主観14点,客観27点で,ADLでは食事の際の食べ忘れ等を認めた.追視は可能な場面はあったが左側へのsaccadeは認めなかった.主訴は「携帯の文章を読みたい」であった.意図的な左空間の探索を行うBIT実施時や携帯電話の文を読む際など,右空間を固視したまま,頭頸部のみが左回旋するといった所見を認めた.この時「(左空間は)頭の中に何となくある,左を見てるつもり」と記述し,左空間の視覚情報が入力されていないことへの認識は無かった.

【病態解釈】
半側空間無視は右空間からの注意解放が困難となるなど空間・非空間的な要素により多様化する(Bartolomeo,2007).本例は左空間の探索時,右空間を固視した状態で頭頸部のみが左回旋し,右空間からの注意解放は困難であった.また左空間からの視覚情報が入力されていないことへの認識が困難であり,左空間の探索における代償戦略の獲得を阻害していると考えた.

【訓練経過・結果】
左右空間の対象物への追視とその際の頭頸部運動の認識を促したところ,「眼を動かすと見えるけど時間がかかる」と記述し,追視は眼球運動に先行し頭頸部が回旋すると困難であるとの認識が生じた.その後は左右空間の対象物への視線移動を自身で行い,意図的な左空間の探索時に頭頸部と眼球の運動で得られる視覚情報の差異の認識を促した.介入1ヶ月後にBIT:通常86点,CBS:主観18点,客観23点となった.左空間は眼球運動を用いた探索が増加し,携帯電話の文を読むことや食事が自己で可能となる場面を認めた.

【考察】
左右空間の追視を用いて視線移動を誘導した際の頭頸部と眼球運動によって得られる視覚情報の差異の認識を促したことが,左空間の探索における代償戦略の獲得に奏功したと考えられた.

【倫理的配慮】
発表に関し本人に口頭で説明,同意を得た.

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