講演情報

[P6-01]「音韻認識能力に注目し幼児の構音障害に改善を認めた一例」

*阿部 耕大1、木村 絵梨1 (1. 北海道こども発達研究センター)
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【はじめに】
幼児期に特徴的な構音障害は器質的及び神経・筋系の異常がなく、構音獲得過程での誤学習によるものとされる。今回、構音障害を呈する児童に対し音韻認識課題により聴覚情報と構音運動の比較課題を行い、改善を認めた為以下に報告する。

【症例紹介】
5歳8か月(X年Y月時点)、男児。遠城寺乳幼児分析的発達検査より移動運動、手の運動、基本的習慣、対人関係で4歳8ヶ月以上、発語3歳4か月~3歳8か月、言語理解4歳2か月であり、視覚・聴覚性記憶、注意機能に幼さを認めた。新版構音検査1回目、会話明瞭度2、単語検査8/50、音節検査で[s][k]→[t]、[ɾ][z]→[d]に置換を認めた。構音に浮動性は認めず一貫した反応で、構音類似運動検査は全項目可能、[s][k][t]と[ɾ][z][d]の音韻弁別は不良であった。

【病態解釈・治療仮説】
本症例は音韻弁別、抽出、配列といった認識能力が未発達な為、言語音の聴覚的な入力異常が生じており、構音操作の誤学習に繋がったと考えた。以上より音韻認識能力が形成されていくことで正確な言語音のフィードバックが獲得され、構音能力が相補的に成長すると推察した。

【治療介入】
1回30分の課題を週2回、約8か月間介入した。Y+4か月までは単音節レベルでの音韻弁別課題、3モーラ語の音韻抽出課題に加え、音素レベルの構音操作課題を実施した。Y+5か月以降は単語レベルでの音韻分解、配列課題を中心に介入した。課題はアノーキンの運動学習モデルを参照し、聴覚から自己フィードバックされた言語音と文字による視覚フィードバックとの差異を比較照合し、構音運動を修正できるよう衝立を使用して行った。

【結果と考察】
Y+4か月後の遠城寺乳幼児分析的発達検査は4歳8か月以上で全項目達成、新版構音検査では単語検査18/50となり自己修正を認めた。Y+8か月後の単語検査で45/50、会話明瞭度1となった。音韻認識能力の向上により言語音のフィードバックが可能となり、誤り音への自覚が生まれ比較修正を繰り返すことで聴覚情報と構音運動が統合され正確な構音操作に繋がったと考えた。小児の構音獲得に際して、構音産生課題に先立って言語音の比較を行う音韻認識課題は有用であると推察した。

【倫理的配慮】
本発表に関して保護者にプライバシー保護について説明し同意を得た。